ロマコメ/ロマサスとして面白く読んだ作品だけど、気になる点も大きかったので感想を書いておく。
町のパン屋さんで働くリリーがある日の夕方、自宅へ帰る途中に近道をしようと裏道を通ったところ、何かの事件現場らしきものに出くわし、頭を殴られて昏倒してしまう。気が付くとグレイという男性が付き添ってくれていて、帰りも自宅の近くまで送ってくれた。かっこいいし誠実そうだし、また会えたらいいな……と思っていたら、その後、階段で男とぶつかりそうになったところを助けてくれたし、誰かに馬車の前に押し出されたようなときも助けてくれた。「これって運命の出会い?」と心躍らせるリリー。しかも成り行きでひと晩泊まってもらうことになったら、翌朝正装で求婚されるしで、ちょっとわけがわからないほどの急展開。というか、そもそもグレイがいつも助けてくれたのって?という疑念がリリーの中に湧いてくる。
リリーは実際に、治安上の問題として捜査中のある事件で「唯一の目撃者」と目されていて、それはグレイの担当する事件でもあるので、リリーの見守りと保護は必要な措置ではある。だけど、この件とは別に、それを事件の半年も前からグレイが勝手に続けていたとすれば……。
町娘と堅物の恋に事件という、ロマコメあるいはロマサスの衣をはがすと、「治安関係者が一目ぼれした女性の素性を洗いざらい調べあげてつきまとっていた」という21世紀のどストレート犯罪事案、しかも逃げ道が完全封鎖されているというたちの悪さが際立つので、いくらハッピーエンドが用意されているとはいえ、特に女性では受け止めがたい人も多いのではないかと思う。まあ、マンガでも小説でも、虐待やハラスメントをバックストーリーに使うものは多く、それがどこまでエンタメのフレーバーとして読者に受け止められるかというのは、作者と編集関係者と読者のコンセンサスの綱渡りなのでなかなか難しいし、本作のラインなら受容可能という読者も多いとは思う。でもまあ、グレイの恋愛大作戦は彼の同僚(それも大勢)にダダ洩れで、捜査協力とはいえその真っただ中に放り込まれるリリー、辛すぎるよねー。私なら町を出るぞ。出ても追っかけられそうだけど。
最初に書いたように、ロマコメ/ロマサスとして読み終えたけれど、期せずして、フィクションと現実のライン引きで自分がどこまで許容できるかをぼんやり考えた作品でした。