わかりあえない他者と生きる 差異と分断を乗り越える哲学 (PHP新書) [Kindle]

制作 : 大野 和基 
  • PHP研究所
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感想・レビュー・書評

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  • 現在の哲学界のスターという認識があり、本を読んでなかったもののすごく期待値が上がった状態で読んでしまったので、普通に良い本だと思うのですが少し物足りなく感じてしまう自分がいました。
    哲学者に未来予測や現実世界の分析をするとどうしても粗に目がいってしまう、科学などは結構雑な認識をしている、倫理の効果判定に経済指標を置くのは正しいのか、などが雑感でした。インタビュー記事なのでどの程度正確に同氏の意図が描かれているのかには注意が必要とは思うので、個人的にはインタビュー形式以外を次は読もうと思いました。憧れた人に会いに行ってはいけない、という雑な感想を抱きました。
    端々の議題や展開、知識はすごく学びがあるのですが、現実を語り始めるととても解像度が低く見えてしまうのはなぜなのか不思議に思います。
    まだしてないことや結果的に過去出来なかったことを、やろうと思えばできるないしやろうと思えばできたと言っているように聞こえる部分が気になってしまいました。

  • T.N

  • 著者はドイツの哲学者

    最初のうちは、哲学者らしいというか回りくどい表現が多い気がして、投げ出したくなったけど、半分ぐらい読んだら慣れたのか結構面白く読めた。

    なるほどと思ったことがいくつか。
    ナショナリズムとは自分は正しい場所に生まれて幸運だったという考え方
    人間とは一生懸命、動物にならないようにしている動物
    話し合いは万能の解決策で、対面の方がよい
    人生を将来のいつかに先延ばししないことが大事

    旅に出る時の移動とか、時間つぶしにのんびり読むのがおすすめ

  • この本は私がマルクス・ガブリエル氏の本で初めて読んだものだ。これを読み私は彼の考えをより知りたくなった。まだ噛み砕けていないことがいくつかあるのだ。
    そもそも倫理学とは?倫理教育とは?何をどうやって教えるのか?誰が教えられるのか?彼の考え、指摘はかなり的を得ていることが多い。だから考えていかなければならない。私たちは当事者だからだ。しかし、同時にでは、どうすれば、どう生きていけば良いのか。実践の面では単純にいかないことも多いと感じる。対話が重要であることは唯一疑いようのない事実である。

  • p.2022/8/27

  • ZOOMで行われたインタビューを起こしたものであるということもあり、哲学者のメッセージというより座談会の延長のように思える。直截に言うなら冗長ということだ。それでもいくつか気になった箇所はあった。以下、ポイントごとに感想を述べたい。

    違いにこだわらない政治というテーマのなかで、著者は、「外観(外見)の違いを人は意識する」と語る。例えば、闇夜に突然出現した黒人男性は、日本人女性にとっては恐怖となる可能性が高い。しかしこの衝動は「馴れ」に属する問題と言えなくもない。一方、ヘビの出現はDNAレベルに刷り込まれた畏怖であるかもしれない。そうであるなら、人間どうしであってもある種の外観の違いは、場合によっては相互の理解を阻む要因となるかもしれない。
    また、「倫理観に基づく人間社会の構築」に関する論理展開も興味深かった。倫理観とは価値感であり、価値感とはその人間が生まれ育った時代と土地に影響を受けた限定的な文化と言えなくもない。この点にはそれ以上の言及がないが、今後倫理に関する著者の主張をもう少し追ってみたいと感じた。

    もうひとつ取り上げるとしたら『利己主義』と『利他主義』だろう。「人類のために生きようというのであれば、『利他主義』ではなく『利己主義』を徹底せよ。なぜなら、利他という言葉は、利己によってのみ成立するからだ」と著者は言う。わかりやすい例として、著者は恋人や家族を持ち出す。「彼、彼女、子供たちのために」という利他主義は、結局のところ自分の価値感を成就させるために行う利己的な感覚に過ぎない。「身を削ってでも、彼、彼女、子供たちが、幸せであるべきだ」という考えは、そのようにあることが自分の満足感を伴うからということに過ぎないからだと言う。欺瞞的に生きるなという意味であるなら、わかりやすい例と感じた。

  • 「他者」の再定義。
    【他者がいないと、自身は環境(≒世界)と不可分になる。他者は常に自身に影響を及ぼし、自身の構成要素でありながら、自身ではない存在でもある】そして【安定とは変化し続けることである】
    このあたりがリンクしてそう。

  • 世界で最も力のあるソーシャルメディアは「グーグル」248

    ナショナリズムとは「自分は正しい場所に生まれて幸運だった」という考え314

    私は他者を生み出し、搾取するグループを膨大な数、作り出しているのが、現在の資本主義だと考えている352

    差別主義は他者を非人間化するが、典型的なのは動物として見ること。反ユダヤ主義者はユダヤ人を、虫、猿、蛇と考えた。女性差別主義者は、女は子を産む存在だから家にいるべきだ、と動物扱いした387

    同調圧力の世界で他者のノーを受け入れる。許しは日々行う類いの実践であるべきだ。
    他者とは、相手が自分と同じでなくとも許すことをあなたが常に学ばなければならない、そんな存在529

    私達西側(日本を含む)は、冷戦に負けた。だって強大な中国と、(ソ連から呼び方は変わったが未だに内実は同じ)ロシアが存在しているから。「共産主義を打ち負かした」なんて出来ていない540

    民主主義とは「意見の相違による暴力沙汰を回避する」ためにあり、二つの利害当事者の妥協点を見いだすもの。これはラディカルな中道の政治である。
    今では「中道」がラディカルな立場である793

    フェイクニュースが溢れる現在はなにが真実か解らない。それに対応する道具は「教育」。幼いころから倫理を教える。大学で学位を取るには学際的な取り組みか必要。例えば物理学の学位を取るには日本の詩コースを受講する(専攻とかけ離れた科目を学ぶ)815

    ダーウィンはひどい人種差別主義者だったと思う。彼の著書を読むとわかる。彼は文化的他者性を人種的、生物学的差異としか見なかった。この唯物主義は社会の存在が見えないので、社会に害をなす。
    コロナ禍では、医師に「国境閉鎖」についてたずねてはいけない。彼らにはウイルスについてのみたずねるべき。医師は国境のことなど何もわかっていない。987

    科学とテクノロジーは人類に対する史上最大の驚異てある。だが、私は反テクノロジー主義者ではない。科学とテクノロジーには倫理に服従させなければならないと言っている1012

    人は束縛を嫌う。だから束縛されないのか自由の本質。しかし「なにものにも束縛されない」という状態は不可能で、なにがしかの束縛が社会にはある。では適切な正しい束縛とは?
    例えばロックダウンは人権侵害だとも考えられる。しかしコロナに対し何もしないのは無策。ロックダウンと無策の間にコミュニティがなければならない。それが正しい束縛(中庸)。
    例えばドン・ファンは束縛が無いが自由ではない(ある意味不幸だ)。ではどんな束縛が適切か。パートナーシップが正しい束縛と捉えてみる。一人のパートナーを選ぶとある程度束縛されるが、驚くほど自由だ。
    これらは友人・家族・法律上のパートナーは面倒くさいが、だからこそ愛し、愛される。これが正しい束縛だ。1307

    『コロナ対策のロックダウンについてのガブリエルの見解』
    2020年5月の一回目のロックダウンは正当である。なぜなら「コロナが未知のウイルス」だったから。しかし二回目のロックダウンはあきらかな人権侵害だ。すでにその時、コロナがエボラのようなウイルスではなく、ハイリスクではないと算出出来た。今後しばらく共存していかなければならないウイルスだとわかった。その状態で行う超法規的なロックダウンは人権侵害で、あきらかな間違い。1332

    マッチングアプリでの恋愛、それとお見合いは上手くいかない。理想の相手を求める恋愛(結婚)したい同士なので逆説的に「理想の相手」など見つからない。あるいは上手くいかない。
    だから「運命的出会いの物語(恋に落ちる)」が正しい。恋は運命的の出会いの物語からはじまって、付き合うと相手の粗が見える、それを双方の知恵で克服していく。相手が自分の理想(自分の思想)と違うことをお互い理解していく。これが上手くいく恋愛。パーティーで「なれそめは?」と聞かれて良い話が出来るのが理想の恋愛1357

    ロックダウンが非倫理的なのは、あたかも人間が不死であるかように装うからでもある1382

    人を愛すること(子育ても含む)には必然的に喧嘩が伴う。恋愛関係には許しが必要。正しく喧嘩する能力が必要1396

    非効率的な余白を持ったほうが効率性は上がる。自分は執筆量が多いが、それは寝食を惜しんで働いているからではない。午前中スパへ行って、午後執筆するほうが、机の前で九時間執筆するより効率が良い。恋愛もそうだが、意味のないことがたくさん起こる余白が必要。社会の進歩にはこれが欠かせない。
    何もしないことはスキルを要する。なにかをすべきでないタイミングをわかっていることは大事なスキル1422

    テクノロジーが幸福を破壊する。例えばアップルは使っていると常に新しいソフトウェア、ハードウェアの購入を要求して邪魔をする。法律で「持続可能な商品しか売ってはいけない」としたほうがよい。現在の三倍の値段で良いから「20年使える製品」を企業は作る1487

    コロナのロックダウン(レストランで人に会うことの禁止)は、陰謀論やワクチン反対デモを生んでしまった。これらが結果的に感染拡大を起こしたという皮肉。人間の社交本能にそむく法律は、法を破ろうという欲求を刺激した1524

    イエスキリストは「非常に道徳的だった」とは言えない。自分を犠牲にしたけど、家族に多大の迷惑をかけた1791

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著者プロフィール

【著者】マルクス・ガブリエル
Markus Gabriel/1980年生まれ。後期シェリングの研究によりハイデルベルク大学から博士号を取得。現在、ボン大学教授。日本語訳に、『神話・狂気・哄笑:ドイツ観念論における主体性』(ジジェクとの共著、大河内泰樹/斎藤幸平監訳、堀之内出版、2015年)、『なぜ世界は存在しないのか』(清水一浩訳、講談社選書メチエ、2018年)、『「私」は脳ではない:21世紀のための精神の哲学』(姫田多佳子訳、講談社選書メチエ、2019年)、『新実存主義』(廣瀬覚訳、岩波新書、2020年)、『アートの力』(大池惣太郎訳、堀之内出版、2023年)など。

「2023年 『超越論的存在論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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