いやー、なんだかめちゃくちゃ良くて一気読みだった。
少女ものが読みたいなあと思っていたところ、夏だ!ナツイチだ!なノリで手に取った初めの作家さんでしたが読みやすいが内容が薄いのでも、作者と読者の距離が近くなれ慣れしいのでもなく、そこにはちゃんと安壇さんの文学があり、確かにこの中で少女たちが、あるいは少女期が終わっていく少女たちが、それぞれがそれぞれの場所で生きて苦しみ、重なってはぶれて見失いながらやがて光を見つけていったのだった。
その過程が本当に良かった。
また、読み終えるたびに目にする志村貴子先生の表紙絵が良くて良くて……!
可愛くて複雑で、単純で幼くて、生意気で懸命でいじらしい、そういう一瞬のきらめきが全部絵に表れていてずっと見ていられます。
さて内容ですが、本書は東京出身の秀才・宮田佳乃12歳が家庭の事情で北海道の新設校である中高一貫の女子校に入るところから始まる。
と、同時に地元出身の美少女で秀才の同学年・奥沢叶の項が交互に語られる形で進んでいく。
一見周囲が羨むすべてを兼ね備えたふたりに見えるが、それぞれが与えられた環境や自身の乏しい自己肯定感が原因のプライドの高さに苦しみ、大切なものを見失っていく……という構図は新しいものではないのだが、この二人の対照的なキャラ付け(特に宮田のキャラ設定がとてもよかったし、そのおかげもあってふたりがあまり相容れないというのも自然でよかった。奥沢のキャラが濃いのでそれだけが際立ってしまうと、どこにでもある昭和臭すら漂う粘質系女子描写が多くなって辟易しそうと思ったせいである)や脇を彩る多種多彩な少女たちの引き算の描写がとても良くて、読み終えるころにはああ、わたしも彼女たちの寮母になりたいとすら思うほどのめり込んだ。
ラスト「宮田と奥沢 17歳の秋」の章、合唱発表会の際、奥沢が本編でずっと描かれてきた逃れようのないと思えた粘性の靄とさえ思える絡みつくような不透明な小さな世界を不意に、だけれどもとても印象的に抜けて一筋の光を掴み、未だ灯台のない暗闇で彷徨う宮田に明るい方からそっと語りかけるという構図が良くて、またその語る内容がいつの間にか手を繋ぎ、同じ光の方へ引いていくかのようなさり気なさ、純粋さが表れているのが良くて、それがまた奥沢が言うのがよくて(以下ループ)
そのうえ宮田項においては、奥沢が感じたような世界の帳が開く描写がたった数十行しかないというのがまた逆に……!(悶)
そして最終章の題が「スーパースター」であること、それを語る主人公が宮田のそばにずっといてくれたみなみであるということがまた胸を打つのであった。
あなたなくては宮田は宮田でいられないのよ。
それはあなたが宮田を輝かせるためだけに存在しているという意味ではなくて、あなたという存在が、誰かを信じ、思いをぶつけることを恐怖せず、見守ってやれる強さを持つあなたが、「すごいすごくない」でも「できるできない」でも「なれるなれない」でもそんなことじゃない、あなた自身がいかに価値のある素晴らしい人間性をすでに持っているかってことを、無理やり肩組んで新橋辺りで大いに語り、一方的に絡みたいと思いましたみなみ大好き。(……
なんと最後に速報しますが、本作の解説は必ず読後に読むべきタイプのそれです。これを先に見てしまうと、まるで昨今話題のファスト映画を見てしまったかのようでいけません。
はー良き読後感。
『ラブカ~』も早く読みたいな。