陸上自衛隊の元陸将と元陸将補の共著である。筆者は二人ともインティジェンスに関わった経歴があり、その点では日本を取り巻く脅威の分析については説得力を持った内容となっている。日本周辺の脅威を復習したい人・その脅威が具体的に日本にどういった影響を及ぼすのか頭の中で整理したい人におすすめの本
2012年に出版された内容に加えて最新の国際情勢として注目されているロシア・ウクライナに関する話題も加筆されている。
・中国の海洋進出への強い意志とそれに対する日米同盟のもろさ
・北朝鮮の工作員が及ぼす影響とそれに対する原発警備の薄さ
・ロシアは日本が隙を見せたり弱さを見せたときに攻めてくる
・大規模自然災害はそれ自体も脅威だが、弱みにつけこむ外的脅威の存在も大きい
こういった脅威を客観的な軍事力や政治的意思の分析に加えてシナリオベースで紹介しており、筆者の懸念・主張が理解しやすい。
いずれも、脅威(外的要因)と日本の課題(内的要因)がセットになっており、外的要因は変更が難しく、内的要因を是正するための提言がなされている。
日本の安全保障上の課題に対する提言は複数あり、いずれも的を得ていると感じるが、具体的に踏み込んだ内容と捉えられるのは「予備自衛官」の拡大のみのようにも思われた。いかに国家レベル、特に安全保障に関する課題解決のハードルが高く、特効薬のようなものがないことかを示している。
(提言には非核三原則の見直し、敵基地攻撃能力の整備、日米同盟の実効性なども言及されてはいた)
スイスの国防基本方針は「徹底抗戦」であり「全国土を占領されても降伏しない」ことが紹介されている。また東日本大震災復興構想会議が出した提言の主旨が「逃げる」ことであったことについてはやや批判気味に紹介している。
いずれも国家や国民自身が自分たちを守ることのモチベーションへのなんらかの示唆が得られると感じた。
全般的には日本周辺を俯瞰した安全保障環境と脅威が分かりやすい構成と内容になっているが、イランの脅威をクローズアップしているあたり、筆者の経験や経歴の影響が多分に入っているのを感じた(どんな筆者でもそうなるとは思うが)。