企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営 [Kindle]

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  • 日経BP
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  • 20220918_経営起点の経営

    顧客が見えなくなると事業成長は止まる
    「経営から顧客が見えなくなっている」。業種や業態が異なり、現場で起きている課題もそれぞれ異なっているように見えても、根本原因を追究すると、組織としての顧客理解が不十分であることに集約された。多くの企業は商品力も強く潜在成長力もあるものの、経営の根幹である顧客理解が疎かになっていた。

    ■経営から顧客が見えなくなっている状態
    ・悩みを抱える経営者の皆さんと話していると、自社のプロダクトが提供している「便益」と顧客との関係が見えなくなっていることに気づく。
    ・便益とは、言い換えると「顧客が買う理由」。独自性は「顧客が他のプロダクトを買わない理由」。
    ・継続的に自社の商品・サービスを購入されている方、あるいはサブスクリプションサービスにおいて長く継続されている方は、何らかの便益があるから購入し続けているはず。 そして何らかの独自性を感じているから、他のプロダクトにスイッチしない。離脱しないわけとなる。

    経営コンサルティングを通じて、組織の構造課題や人事採用の問題を扱うこともあるが、営業、開発、財務、製造、人事、マーケティングなど個別の部門のそれぞれに課題があるように見えても、それらの課題を突き詰めると、実はその多くは会社全体で問題視すべき「顧客の実態が見えなくなっている」ことに起因している。

    ■戦略の根本的な問題は顧客不在
    ・「大手コンサルティング会社や代理店に委託したがうまくいかない」と、筆者が事業支援を引き継ぐこともあるく。過去に作成された分厚い戦略提案書を拝見すると、構成は網羅的で論理的、表現も魅力的だ。しかし実行するには概念的すぎて、現場の納得感も無いため、クライアント内で具体的なアクションに移せていない。
    ・その場合、提案のもととなるはずの「顧客の理解」がそもそも弱い、という問題を抱えていることがほとんどだ。コンサルティング会社が提案する改革やアクションは、顧客が誰かを具体的に定義しないまま策定された競合との戦い方、手段や手法、仕組みやプロセスの変更、あるいは財務的な打ち手が中心だ。そのため、それらアクションの結果としてどのような顧客が自社プロダクトに価値を見出し、結果として売上と利益をもたらすのかが見えないので、概念的に感じるのだ。

    ■戦略の根本的な問題
    ●戦争を元にした戦略
    ・目的:自国の意思を押し通すために他国を屈服させる。

    ●ビジネスに必要な戦略
    ・目的:顧客から価値を見出してもらい、継続的に支持してもらう。

    ■「大企業病」ー意識が組織の内部に向かう
    ・組織が拡大し、業務が細分化・個別最適化することに起因する、様々な問題の総称としてよく挙げられる。
    ・意味するところはすべて「組織が大きくなる中で組織の能力も個人の能力も発揮しにくくなり、組織に何らかの変化が必要だ」という話だ。また、同じ文脈で「組織を貫く“横串“が必要だ」との話も多く聞かれる。
    ・組織を変革するために必要な変化とは何か、そして横串とは何か。それは、創業時にはできていた顧客の理解だ。自社の商品やサービスを購入している、あるいはこれから購入するかもしれない顧客を理解することこそが、成長の壁を突破する鍵であり、組織をまとめ上げる横串となる。

    ■顧客理解に関する実態調査
    ・質問1:対象とするマーケット全体の顧客数は定義されていましたか?(100%シェアを獲得した際の総顧客人数)
    ・質問2:売上目標と顧客との関係は定量的に可視化されていましたか?(売上=顧客数×単価×頻度)
    ・質問3:顕在顧客と既存顧客を分ける基準が定義されていましたか?
    ・質問4:対象とする顧客セグメントは設定され、定量的に可視化された上で部署をまたいで合意されていましたか?
    ・質問5:顧客に価値を与える主要な便益は定義され、部署をまたいで合意されていましたか?
    この調査結果から、多くの事業において顧客が十分に理解できておらず、組織全体が一丸となって顧客に向き合える状態にないという実態が浮き彫りになった。つまり、組織全体で顧客は誰かが見えていない状態であり、どれだけ顧客の大切さを組織内で語っても、経営は顧客を見失うことになる。

    ■序章のまとめ
    ・ 売上とは、BtoC、BtoBにかかわらず「顧客数×単価×頻度」。人口増の昭和の時代は顧客の人数が自然に増え、売上も伸びた。しかし人口減の平成、令和の時代は顧客数が減少し、媒体や顧客自体の多様化も伴い、売上減少に。
    ・ 組織が拡大すると情報伝達や組織構造は複雑になっていく。その複雑性を解消するために、意識がより組織内部に向かうようになり、それまであったはずの顧客への興味や意識が急速に失われる。
    ・自社の商品やサービスを購入している、あるいはこれから購入するかもしれない顧客の理解こそが、成長の壁を突破する鍵であり、組織をまとめあげる横串になる。

    1-1 顧客の何が具体的に見えていないのか
    経営が見失っている顧客
    1 顧客の心理ー顧客の行動の“理由“が見えない
    ・売上をもたらす顧客の行動を理解するだけでは不十分。その行動の原因となる心理と、行動した結果の心理の理解がなく、財務諸表上で売上や利益が上がっている事実だけがあっても、それは事業の健全性や継続性を保証しない。さらに、対応すべき競合リスクや積極投資すべき成長の機会は見えない。財務諸表は、顧客行動の一時的な結果でしかない。投資対効果とは、単純な売上や利益の増減ではなく、顧客の心理にどのような影響を与え、どのような行動につながっているのかまでを見通して初めて評価できること。
    ・経営が取り戻すべき顧客理解の第1は、この顧客の心理と顧客の行動の関係となる。

    2 顧客の多様性ー「マス思考」という病
    全てのビジネスは1対1と1対マスの間にある
    ・どんな顧客が購入してくれたのかが分からなければ、次にどのような顧客に提供し、営業すべきかが見えないので、再現性がない。
    ・つまり経営が実現すべきか最適解、すなわち投資対効果の最大化は「1対1」と「1対マス」の間にある。この間にある多数の顧客を、どのように分類(セグメンテーション)すれば、自社プロダクトが提供しうる価値を最大化できるのか、その組み合わせの優先順位を見つけることが重要だ。
    ・特定の一人でも不特定多数でもなく、多様な顧客の中に、自社プロダクトが強い価値を生み出し得る顧客層(セグメント)を洞察することが鍵だ。

    ■複数の顧客層を洞察する
    ・ここで重要なのは、どのようなプロダクトでも、複数の異なる顧客(セグメント)に価値を見出してもらうことが可能だということだ。
    ・マクドナルドは決して「美味しいハンバーガーを求める顧客層」だけを対象にビジネスをしていない。独自のうまみのあるマックフライドポテトを求めていて、ハンバーガーは副次的に捉えている層も大きな顧客層だ。いつでも気軽にコーヒーやスイーツが楽しめることに価値を見出す層もまた、顧客層だ。通勤途中で気軽に朝食を買ってオフィスで食べられることに価値を生み出す顧客層も大きいだろう。それぞれ継続的にマクドナルドで購買している。これは「マス思考」的なアプローチとは明らかに違う。異なる顧客セグメントとマクドナルドが提供する便益と独自性の組み合わせを複数、かつ同時に展開している。
    ・スマートニュースのようなニュースアプリでも同様に、複数の顧客層が成り立っている。毎日の最新のニュースを朝にざっと見ることを趣味にしている顧客層もいれば、昼食前にランチクーポンを探す顧客層もいる。目当てのプロ野球球団やサッカーチームの最新情報を楽しんでいる層もいれば、天気の情報や海外情報を求めて使用している顧客層など、複数の顧客層がいる。誰でも必要な情報が見つかるニュースアプリ、といった総花的で最大公約数的な「マス思考」アプローチ、あるいは野球ファンといった特定の顧客層だけに向けた単純なアプローチでは利用顧客が増えずサービス伸長は難しかった。
    ・売上=顧客数×単価×頻度で考えると、 この顧客は1種類ではなく、高い単価と頻度をもたらす顧客群は、必ず複数の顧客層に分類(セグメンテーション)される。ここを洞察することで、見えていなかった新たな事業成長の可能性、つまり自社プロダクトと顧客の新しい組み合わせが見つかる。
    ・このように、1対1と1対マスの間に、自社プロダクトが価値を創りうる複数の顧客層を洞察することが、経営が取り戻すべき第2の顧客理解である顧客の多様性の理解である。

    3 顧客の変化ー昨日、今日、明日の顧客は同じではない
    今日、初回購入すれば顧客になる
    ・普段あまり意識することはないが、顧客は常に変化し続けている。BtoBの場合はBtoCと異なり、顧客側の状況変化による心理変化よりも、競合を中心とする競争環境の変化によって法人顧客の心理と行動が変化する(意志決定の優先順位や軸が変わる)ことが多い。それこそコントロール不能だ。

    顧客起点の定義ー顧客の視界で見る
    ・経営が取り戻すべき顧客理解には、顧客の心理、多様性、変化の3点がある。これらの理解を深めることで、「顧客は誰なのか」を定義し、それを共通の横串として組織全体で共有し、経営層を含めて社内で議論して意志決定を行い、進捗に応じてPDCAサイクルを回していくことが本書で提案する顧客起点の経営改革だ。

    BtoBにおける顧客起点ー最終顧客の便益を考える

    顧客起点の経営への3つのフレームワーク
    ・本書で提案する主たるフレームワークは、「顧客起点の経営構造」「顧客戦略(WHO&WHAT)「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」の3つだ。

    第1のフレームワークー「顧客起点の経営構造」
    ・1つ目の「顧客起点の経営構造」は、経営の視界に顧客を捉えるためのフレームワークだ。上から順に、経営対象、顧客心理、顧客行動、財務結果の4つのブロックで成り立っている。どのような事業においても経営活動が顧客の心理状態に影響を与え、その顧客の購買行動を変え、売上や利益という財務結果へと導く。
    ・従って「顧客」は経営対象と財務結果の間に存在している。財務結果の手前、下から2つ目の顧客行動に「顧客数×単価×頻度」と記したが、これらがすなわち売上になる。
    ・経営が管理対象とする新規顧客の獲得、あるいは既存顧客の維持及び育成の投資活動は、顧客の行動を急に変えることはない。潜在顧客が初購入したり、既存顧客の離反が減ったり(=顧客人数の増加)、より多くのお金を使う・一度にたくさん買う(単価が上がる)、買う頻度が上がるといった顧客行動の変化は、必ず何らかの顧客心理の変化に起因する。

    第2のフレームワークー「顧客戦略(WHO&WHAT)」
    ・2つ目は、誰に(WHO)、何を(WHAT)提供すれば価値が生まれるのかを明確化し、施策に落とし込んでいく「顧客戦略(WHO&WHAT)」だ。序章で指摘した経営を誤らせる顧客不在の戦略から脱却し、顧客とプロダクトを軸とした新しい戦略概念だ。
    ・ 誤解されがちだが、商品やサービスであるプロダクト自体には「価値」がない。プロダクトが提案する便益と独自性を、自分自身にとって価値があると顧客が認知して初めて「価値」が生まれるのだ。価値を認知した顧客がプロダクトを購入して初めて価値が貨幣に変換され、売上や利益となる。つまり、どれだけプロダクトが優れていると企業側が信じていても、企業にとって便益と独自性があると認知する顧客がいない場合、そこに価値は発生しない。
    ・顧客戦略を明確にすることは、どんな事業においても必ず行うべき出発点だ。徹底した顧客理解を通して顧客戦略を立案し、組織内で運用することで、顧客心理の変化から顧客行動の変化、そしてそれが売上・利益に変換され財務諸表となるまでを一気通貫して把握することができる。それがすなわち、組織の抑止となるのだ。
    ・すなわち経営とは、顧客(WHO)が価値として認める便益と独自性(WHAT)を、プロダクトを通して提供し、継続的に財務結果を向上させることを目標とした手段(HOW)といえる。顧客とプロダクトとの間に価値を実現するために経営があると捉えることで、競合と自社内ばかりに目を向ける顧客不在の戦略論から脱却できる。

    第3のフレームワークー「顧客動態(カスタマーダイナミクス)」
    ・5分類される顧客は、固定しているわけではない。顧客の心理と行動は常に変化し、これらのセグメント間を動いている。それをふまえて、顧客全体を動態として捉えるのが「カスタマーダイナミックス」だ。
    ・この5つのセグメントを動態で捉えると、現在顧客の中には、これから自社プロダクトの購買頻度を上げたり購入量(単価)を増やしたりする直前の潜在的なロイヤル化顧客もいるし、離反状態だけれど久しぶりに自社プロダクトを購買しそうな潜在的な復帰顧客もいる。あるいは認知未購入顧客の中には、明日にも購買行動を起こそうとしている潜在的な新規顧客もいるし、未認知の中にも潜在的な新規顧客がいる。一方で、現在顧客でありながら、何らかの理由で継続購買を止めようとしている潜在的な離反顧客もいる。

    3つのフレームワークを活用した顧客起点の経営
    ・経営が見失ってる顧客の理解とは、具体的には顧客の心理、多様性、変化だ。まず第1のフレームワークで、経営とはどういった活動なのかを俯瞰的に理解し、経営対象への投資(HOW)から財務結果までの間に「顧客の心理と行動」があることを明確に認識し、その理解を経営の視界に捉える。具体的な経営の投資は、第2のフレームワークで誰に(WHO)何を(WHAT)提供して価値を創るのかを見定めた上で、顧客戦略(WHO&WHAT)を創出し明示化して、経営対象への投資(HOW)と併せて実行し、PDCAサイクルを回していく。
    ・繰り返しになるが、経営とは、顧客が価値として認める便益と独自性をプロダクトを通じて提供し、継続的に財務結果を向上させることを目標とする手段だ。つまり、顧客戦略とは、経営が継続的な事業成長と収益性の向上を達成するために目指すべき投資戦略そのものだといえる。

    ■第1章のまとめ
    ・経営が取り戻すべき顧客理解には、顧客の心理、多様性、変化の3点がある。これらの理解を深めて「顧客は誰なのか」を定義し、それを共通の横串として組織全体で共有し、経営層を含めて社内で議論して意志決定し、進捗に応じてPDCAサイクルを回していくことが「顧客起点の経営」である。
    ・ お客は到底自らの何らかのニーズを満たすために、様々な選択肢を視界に入れる。自社商品サービスと同じカテゴリーに属する競合だけでなく。カテゴリーに関係のない大体プロダクトや代替案もそこには含まれる。これらの全てをとらえることが重要。
    ・顧客の状況を時系列で可視化し、顧客起点でビジネスをマネジメントする顧客起点のフレームワークを活用して、経営の健全化を実現する。これらは経営と現場で共有し、組織全体での顧客理解とPDCAを繰り返すことで、継続的な成長へつなげることができる。

    経営の理想的な状態とは
    ①経営対象
    ・経営の管理対象となる様々な投資活動、その活動を支える組織活動が可視化、管理されている。同時に、それぞれがどんな顧客心理が変化を生み出し、顧客行動の変化につながっているかを議論できるので、投資対効果もわかる。結果として、財務結果が変化した場合、顧客の心理と行動に立ち返ることで、どの「経営対象」に優先投資すべきか、削減すべきかを判断できる。変動費と固定費においても、優先順位が明確なので、最適化できる。本フレームワークが組織内に共有され、各担当と全体の繋がりが議論可能な状態になっているため、組織が一体化している
    ②顧客心理
    ・顧客行動(「顧客数×単価×頻度」)を変える要因である「顧客心理」つまり「なぜ(WHY)その行動が起きたのか」を、経営レベルで可視化し議論の対象として管理している。
    ③顧客行動
    ・財務結果の手前にある、売上を構成する3要素「顧客数×単価×頻度」を可視化して、経営指標としている。
    ④財務結果
    ・経営や投資家は「財務結果」とその詳細分析である「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」を指標として見ている。また、その四則演算の指標を使った分析が実行されている。

    ■第2章のまとめ
    ・企業は、直接的に顧客の手足を動かせるわけではない。行動の前には、必ず心理の変化があり、認知、価値観、無意識のニーズが変化するプロセスがある。その結果として、顧客の行動という目に見える形になる。
    ・ 顧客心理と顧客行動の関係を可視化し、経営と組織全体に実装することで、投資対効果を高め、収益性を向上することができる。顧客心理と行動の関係性が見えないままの投資は、顧客行動の変化をただ期待しながら闇雲に投資することになり、費用だけが確実に積み上がる。
    ・顧客起点の経営へと改革した組織は、顧客理解が横串となってフラット化し、全社に顧客起点の考え方と指標が浸透していく。そしてそれぞれの部門、担当が顧客の心理と行動の変化に向き合うことで事業が推進され、結果として事業成長と結びつく。

    顧客戦略とはー誰に何を提供すれば「価値」が生じるのか
    ・スマートニュースがTAM顧客数と考えていたマーケットは、「スマートフォンを持つ男女10-60代」の8000万人強だった。その中で顧客(ユーザー)拡大のために実行した顧客戦略は、「外食する社会人・学生・主婦」(WHO)に対して、「マクドナルドやガストのクーポンでランチがお得になる」(WHAT)であり、その便益は「その日に使えるクーポンでランチが安くなる」、独自性は「1つのアプリに大手の最新クーポンがまとまっている」だった。今となっては、様々なアプリが同様のクーポン提供を始めたので、独自性は弱くなったが、当時はスマートニュースだけの独自性が高い価値を生み出した。

    顧客戦略は全戦略の上位概念
    ・経営学者のピータードラッカー氏は「企業と使命と目的を定義するとき、出発点はひとつしかない。顧客である」と洞察している。また、マイケルポーター氏も「競争の本質は競合他社を打ち負かすことではなく、価値を創造することである」と語り、「戦略の目的は、あらゆる顧客を幸せにすることではありません。戦略を立てるからには、対象とする顧客とニーズを定めなくてはならない」と強調している。

    ■第3章のまとめ
    ・あらゆる事業、あらゆるプロダクトにおいて、TAM顧客数は5つのセグメントに分けられる。認知の有無、購買経験の有無、購買頻度の3つの基準で「未認知顧客」「認知未購入」「離反顧客」「一般顧客」「ロイヤル顧客」に5分類できる。
    ・顧客戦略(WHO&WHAT)とは、経営が目指すべき投資戦略である。価値を生み出す顧客戦略を明確にし、組織内で部門横断で共有することで、組織全体の活動に一貫性と効率性をもたらす「顧客起点の経営」の実装が可能になる。
    ・顧客になっていただきたい方々に対して、自社プロダクトが提供する便益と独自性を磨き上げ、その方々に正確に伝えて体感していただくことで、顧客との間に高い「価値」が生まれる。結果、コモディティ化による価格競争を避け、継続的な購買を実現できる。

    ■第4章のまとめ
    ・顧客は動態である。顧客の心理状態やその結果としての行動は常に変化している。競合に先んじて顧客の変化を捉えて顧客戦略(WHO&WHAT)を素早く変革させていけば、競合よりも早く顧客への価値創造が可能になる。
    ・マーケットは常に変化し続ける「顧客の心理と行動の動態」と捉えて経営すべきである。収益の向上を目指す経営が実現するのは、新しい顧客を創造すること。すなわち、自社プロダクトを継続的に支持して頂ける顧客の動態を生み出し続けること。
    ・本質的で持続性のある事業成長に繋がる戦略として目指すべきは、今、目の前のマーケットの顧客の心理と行動を理解し、素早く顧客戦略を構築し、それを実現する手段手法を企画・実施し、PDCAが可能な体制を組織に内製化することだ。この一連を可能にすることが、顧客起点の経営改革である。

  • 2024/02/24

  • 基礎に忠実に丁寧に向き合う事が最短距離の顧客起点の経営だと読みながら、まだまだ改善できることが明確に解像度が上がる本。実際お客様は何を求めて、何を欲してるのか、それをどうアプローチするのか、マーケティングの手法とデータを用いながら、丁寧に作られている本で、気づきが多かったです!

  • 数字の先のお客さんをどれだけ見えているか、マスで捉えすぎて個々人を見失ってないか、非常に刺さる示唆を与えてくれた。
    B2Cがメインにも見えるかB2Bでもその根本的な思想は使えると思った。


    ◯経営から顧客の実態が見えない
    ・便益と顧客の関係が見えない、買い続けてくれるということは便益と独自性がある。
    ・便益とは顧客が買う理由
    ・独自性とは顧客が他のプロダクトを買わない理由

    ・顧客の価値創造につながらない商習慣や社内事情による意思決定はコストアップにしかつながらない

    ・分厚い提案書を拝見すると、構成は網羅的で論理的、表現も魅力的、しかし実行するには概念的すぎて現場の納得感もないため、具体的なアクションに移せていないケースが多い。その場合そもそも提案の元となるはずの顧客理解が弱いケースがほとんど。

    ・便益と独自性を強化、新たな便益と独自性の組み合わせを見つける



    ◯ラリーグレイナースの企業成長と危機

    写真図4

    ・多くの企業が第2、3段階で足踏み
    ・組織拡大に伴い急速にコミュニケーションが劣化、そして顧客理解が弱くなる。どんなに優秀な経営者でも第2段階以降に進むと現場感覚、顧客理解は薄れる。

    ◯大企業病の本質
    ・縦割り化サイロ化、人が育たない、マーケが弱い、など多様だが、必要な横串、顧客の理解という横ぐしが無い

    ◯顧客心理
    ・行動ではなく心理、なぜ買ってもらえたか、なぜ高い単価を払ってもらえるのか、なぜ頻度が上がったか、実際に購入体験してどう感じたか
    ・顧客の心理は常に変わっていく、変化を捉え続ける必要がある。
    ・B2Bでは心理よりも競合を中心とする競争環境の変化による法人顧客の心理と行動が変化することが多いがこれはコントロールできない

    ◯マス思考
    ・1対1で圧倒的な便益と独自性を提供しうるプロダクトをより多くの顧客に届けようとする、その行き着く先が顧客が合算、平均値として捉えられ、経営と意思決定が最大公約数的になる状態。便益も独自性も総花的で凡庸になる。結果的に価格競争に陥る。
    ・経営が目指すべき最適解、投資対効果の最大化は1対1と1対nの間にある。セグメントの洞察と優先順位づけが鍵
    ・便益と独自性の組み合わせは1種類ではない

    ◯顧客の視界で考える
    ・自社から見た競合を顧客は見ていない。、自動車の競合は徒歩かもしれないし移動という括りその目的を捉えなければ見えない。
    あくまで顧客が求める便益とその目的を捉える
    ・B2Bでは、最終顧客のCにどんな便益がもたらされるかを考え抜くことが重要、全体のバリューチェーンにおける位置付けの理解

    ◯顧客起点の経営構造
    ・顧客の行動だけでなく、行動の前に必ず存在する心理の変化を経営に組み込むことが不可欠
    ・結果が顧客数×単価×頻度、として売上になり、利益という財務結果につながる。
    ・管理可能な経営対象であ?新規獲得と既存の維持育成、投資を支えるプロダクト開発、これを実行する組織人材教育への投資は費用として現れるが、売上拡大の投資議論と費用削減の議論は個別の取り組みになりがち、しかし売上を最大化する効果の高い手段が明確になればそれ以外の投資を抑えられるため費用も減らせる。表裏一体で一体で考えるべき。
    ・外部環境の変化や競合など、管理が困難な経営対象もあり、これが費用を変動させる。だからこそ顧客の心理と行動にどのように影響を与えるかいち早く理解することが重要。
    ・顧客行動の裏にある顧客心理がブラックボックス化し、財務結果と経営対象である費用しか見えていない。そのため各部門がそれぞれの機能の実行のみに集中し、組織のサイロ化が進む。

    ◯まずは全体、TAM顧客数
    ・対象マーケット自体の定義
    ・単価と頻度を決めるのは顧客なので、コントロールできないし、顧客から意識が離れるから顧客数にフォーカスする

    ◯顧客のセグメント: 5segs
    1. ロイヤル顧客
    2. 一般顧客
    3. 離反顧客
    4. 認知未購入顧客
    5. 未認知顧客
    ・顧客数に対して、自社との関係によってセグメントを分けるのは最小限の顧客分類

    ◯顧客戦略 who&what
    ・便益と独自性の掛け算が成立する組み合わせをどれだけ多く洞察し実現するか。
    ・ドラッカー: 企業と使命と目的を定義する時、出発点は一つしかない、顧客である
    ・マイケルポーター:競争の本質は競合を打ち負かすことではなく、価値を創造することである
    ・HowだけのPDCAになると成果が出ない
    ・価値提供組み合わせの優先順位の決め方
    1. 潜在規模(獲得可能な顧客数)
    2. LTVの大きさといつ実現可能か
    3. 手段手法の存在と実行性

    ◯N-1
    ・5セグズのどこに該当するかを確認してから個別に丁寧に心理を把握する。対象ごとに目的を設定し、10人以上ヒアリング分析すれば、価値を見出すプロダクト提案の可能性は必ず見つかる
    ・ロイヤルはなぜロイヤルなのか、一般顧客はロイヤル化するには何が必要なのか、といった形でセグメント毎に明確な目的を持ってヒアリングする。

    ◯カスタマーダイナミクス
    ・単一プロダクトでは顧客単価はいずれ限界にくる、異なる新しいプロダクト提案で新しい価値を創出することがファン化の本質。

    ◯価値の創造
    ・勝ちの成立とはドラッカーの言う顧客が想像されること、特定の1人が特定のプロダクトに自分にとっての便益を見出し、他では代替し難い独自性を見出し、入手のために対価を払ってもいい、時間と労力を使ってもいい思って実際に購入や利用に至ること。
    ・自分が顧客を理解していると思い始めることが失敗への入口、理解が間違っているかもと懸念することが成功への入口。

  • 前作である「顧客起点マーケティング」では分析から明らかになる顧客セグメントと「アイデア」の重要性を説いていたが、今作では「顧客」とその心理を明らかにすることを起点として経営構造を説明している。
    その分セグメントの印象が前作よりも薄くなっているので、前作を踏まえた上で読んだ方がいいかもしれない。

    WHOとWHATのフレームワークを用いて多くの事例や具体例が紹介されている。
    どの顧客に対してどういうプロダクト提案や訴求をするかという構図が整理されているので、ただの「アイデア」以上の納得感を持って各事例を見ることができる。

    後半のドラッガーの言葉や、3社との対談もおもしろかった。

  • 9セグメントの経営者向け版。マーケティング界隈にいると「この商品は誰が何のために買っているのか」が気になるのは当たり前なんだけど、とりあえず売上がとれてて利益が出てれば現場の人間も経営層(特に財経畑)もあまりその辺どうでもいいんだよね。儲けるために、というよりは、誰のために事業をやってるのか?を自問したり環境変化に対応せざるを得ないときにとても役に立つフレームワークだと思う。

  • 一言結論:
    経営に携わる人なら必読と言っても良いくらい、重要な考え方を実践に移すために特化された本でした。

    感想:
    顧客を理解することが1番大切、と言われるとどの経営者も当たり前だと言うと思います。では組織でそれが実践できているか?まず現状を見つめるところからこの本が役立ちます。
    この本の前半でそもそも「なぜ顧客が見えなくなるのか」「真の顧客理解とは」という前提がみっちり書いてあります。そのうえで、具体的にどうそれを経営に落とし込むかのフレームワークが続きます。ドラッカー実践版とでも言うべきこの本では理論はもちろんですが徹底して実践が念頭にあります。

    経営者のための本かと言われるとそうかもしれませんが、私も経営者ではありません。しかし経営者でなくとも、人間vs人間における本質をこの本は考えさせてくれます。それは、相手の心理とそれゆえの行動を考えることこそ鍵だということです。人間は感情の生き物ですから、顧客と呼ぶかどうかに関わらず私たちと接する人は私たちの言動から何かを感じます。私たちは相手との良い関係を築くことにおいても、「相手起点の言動」を意識するべきです。この本から全ての人間関係はこうあるべきだと学べました。

  • 消費者理解と経営をつなぐとても参考になる本
    ただ中盤以降は前作と一緒の内容

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著者プロフィール

1990年大阪大学経済学部卒業。P&G入社後ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを歴任。2006 年ロート製薬入社、執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デオウ」「ロート目薬」などの60以上のブランドを統括。2015 年ロクシタンジャポン社長就任。2016 年にグループ最高利益達成、アジア人初のグローバルエグゼクティブメンバー、退任後、社外取締役。2017年スマートニュースに日本と米国のマーケティング担当執行役員として参画。2年で累計5000万ダウンロード、時価総額1000億円超のユニコーン企業化に貢献、退任後、マーケティング戦略顧問。2019年に「顧客起点マーケティング」(翔泳社)を出版。発行部数5万部を超え、台湾、韓国、米国でも翻訳される。2021 年8月現在、Strategy Partners 代表取締役。経営改革、マーケティング改革の支援を行うM-Forceの共同創業者。

「2021年 『マンガでわかる新しいマーケティング 一人の顧客分析からアイデアをつくる方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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