日本が飢える! 世界食料危機の真実 (幻冬舎新書) [Kindle]

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  • 幻冬舎
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感想・レビュー・書評

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  •  今の計算の仕方で算出した自給率をあげることや、麦・大豆・飼料用米等への助成が、「もしも輸入できなくなったら」の際の対策になっていない。それがくり返し書かれている。
     それは同意する。問題点の分析、他国との比較は的確だ。
     だが、肝心の解決策が疑問。
     著者の解決策を要約すると『日本は関税をかけて価格を維持することに金をかけているが、関税を減らし(とくに米)、直接支払にするべきだ』ということかと思う。

     現在、米へは多額の関税費を負担して保護、麦・大豆は直接支払を行っている。けれど、米を同額直接支払いにしたら、経費が安い麦・大豆にシフトだろう。
     それだけ圧倒的に、米に比べて麦・大豆は労力が少なく経費が安い。
     麦・大豆は機械代が高いと著者は言うが機械の減価償却費を入れても麦・大豆生産のコストは数倍低く、水稲栽培は、麦ほどコストは下がりようがない。
     実際、現在でも、輸出米を作付すれば、麦と同じくらいの直接支払をしている。しかし、麦・大豆の栽培面積に比べて輸出用米は微々たるものだ。
     つまり、同じ直接支払額なら誰も米を栽培しなくなる。
     麦・大豆と米を同じ価格の直接支払をするなら、日本の水田はほぼ壊滅状態になるだろう。
     だからと言って、差を設けるなら米価が下がらない、と元の問題に帰ってしまう。
     米の関税廃止、直接支払を解決策にするなら、現在の直接支払についてもっと言及するべきかと思う。
     実際、現在も米の輸出米については直接支払がされている。それでも輸出米が進んでいない。そこに言及していない時点で、解決策に対する現時点の分析が甘いと思う。

     例えば、単収をあげる研究は禁忌とされているというようなことが書かれているが、単収の増加は農家所得に直結するから、現在も県の試験場でも国の農研機構でも研究されている。
     その研究が盛んではないと言いたいのかもしれないが、それならどこがどれだけ研究すると単収がどれだけあがると予測できるのか。単収の増加はほぼ窒素施肥量に比例するが、輸入に頼っている窒素をどこまで増やすべきか、など、その試算をするべきだ。
     そもそも、現在の単収のままだとしても、現在の水田の全てで現在の単収で水稲を栽培すれば、現在の日本人の消費量の倍近い量ができる。
     日本人の米の消費量アップのアピールをいくら国がしたって、高齢化・人口減少の日本では、せいぜい現状維持がいいところだろう。
     つまり、今の日本人が食べている分と同じだけの大量の米を全て輸出することになる。
     著者は日本の米はブランド力があり高く売れるという。つまり、主な売り先は先進国やそれ以外の国の極一部の富裕層をターゲットにしているのだと思うが……。
     日本の人口は先進国の中ではアメリカに続いて多い。その1億人分の米を、米が主食じゃない世界にほぼ全てをブランド価格で売れるだろうか?
     まあ、全て(の米の平均)がちょっとお高めの米の価格で売れるとしよう。それでも、今の日本の米価の半額でしかない。
     著者は直接支払をいくらを予定していて、大量の米をどうするつもりなのか……。

     著者の農業に対する問題提起の部分はわかる。同意する。農業政策のつたなさ、農家が地代で儲けている資産家なこと、農協の闇、食の安全といいつつ、全然有事に供えていないこと。全てその通りだと思う。
     けれど、その解決策についての分析が甘い。
     農業……特に日本の米について、現状のおかしな点を放置している農業関係者に著者は憤りを抱いているが、そうではなくて、誰もが問題をわかっていながら解決策がないから見て見ぬをふりをしているのだと思う。
     一番大切な解決案の分析が甘いと結局はぼやきでしかなく、現状を変える一石にはなれないだろう。
     問題点の指摘は具体的で解決策は抽象的という、よくあるパターンだが、現状分析が的確なだけに残念だ。
     抽象的な解決方法は賛同が得られやすいものだ。けれど、具体的な解決策を提示しない限り物事はすすまない。
     直接支払を麦・大豆と比較しいくらにするのか、そうするとどれだけすればどれだけ米価が下がるのか。机上の空論でもいいから概算してほしかった。具体的に解決策を提示されば、ここがおかしい解決になっていないなどの指摘が入るだろう。それこそ、解決に向けた一石にかかせないものだと思う。

  • 日本の食糧自給率はタネも含めるとかなり低い。

  • 食するモノを自らで十分な量を作れないことが取り返しのつかないこととなる
    自給率向上が叫ばれてから、久しい。。

  • 主張は明確で現状の米に関する減反政策を改めよというもの。
    関連した話題が興味深く、なぜそうなったのかという考察に筆者は農協、農水省、農林族議員の利益供与関係にある構造が挙げられている。
    理屈として反論の余地はあるのだろうが、現実利益供与関係のある団体が、自らの利益につながる決定をしうるという構造があるとすれば問答無用と考えてしまうのだが、おらが村の戦いに終始する日本らしいようにも感じてしまう。
    TPP、農業効率、人類の財産としての土、輸出入、前後の経緯、海外の政策、食料安全保障と台湾有事。全てが結論のために繋げてくださっていますが、いずれも筋は通っているように思えました。
    反論の本も読んでみたく思います。

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著者プロフィール

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
1977 年東京大学法学部卒業。ミシガン大学行政学修士、同大学応用経済学修士。博士(農学)。農林水産省ガット室長、地域振興課長、農村振興局次長などを経て、2008年より独立行政法人経済産業研究所上席研究員、2010年よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
主な著書に、『国民と消費者重視の農政改革 ―― WTO・FTA時代を生き抜く農業戦略』(東洋経済新報社、2004年)、『食の安全と貿易 ―― WTO・SPS協定の法と経済分析』(編著、日本評論社、2008年)、『環境と貿易 ―― WTOと多国間環境協定の法と経済学』(日本評論社、2011年)、『日本農業は世界に勝てる』(日本経済新聞出版社、2015年)など。

「2016年 『経済政策論 日本と世界が直面する諸課題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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