あの本は読まれているか (創元推理文庫) [Kindle]

  • 東京創元社
3.86
  • (3)
  • (2)
  • (0)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 40
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (493ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「あの本は読まれているか」ラーラ・プレスコット。初出2019、吉澤康子訳、東京創元社2020刊。

    長い道のりでしたが、愉しい読書でした。
    2020年に新刊本で出たときに、「冷戦下で、ソ連では発禁だったドクトルジバゴをCIAがソ連に届けようとしたのかあ。スパイもの?面白そう」と思ったんです。いつか読もう、と。

    今年になって読もうと思ったんですが、
    「まずはドクトル・ジバゴを読まないとな」
    「ならばロシア革命について読んでからにするか」
    「そうするとマルクス主義の初期状況について知りたいな」
    「マルクス前史で言えばフランス革命か」
    「スターリンについても知ってから読むか」
    「冷戦と社会主義国ということでいうと、ベトナム戦争か・・・」

    という興味の数珠繋ぎで

    ・「ロシアの革命」
    ・「ヒトラーとスターリン」
    ・「カール・マルクス」
    ・「100分d e名著 資本論」
    ・「物語 ベトナムの歴史」
    ・「ベトナム戦争」
    ・「人間の集団について」
    ・「第二次世界大戦」
    ・「フランス革命」
    ・「戦場の図書館」
    ・「ドクトル・ジバゴ」

    というような本を読みに読んで・・・とうとう「あの本は読まれているか」に。準備運動たっぷりで上陸。

     この本単独でいうと、内容としては二つの世界が交互に描かれる。

    A 1950年代のCIA。働く女性たち。男女差別。同性愛。秘密エージェントとしてドクトルジバゴを、万博みたいな会場でソ連人に配る。(でもこっちの主な題材は、男女差別と同姓愛の切なさ)

    B おおまか同時期の、パステルナーク(ドクトル・ジバゴの作者、ソ連の文学者)と、その愛人のオリガさんの伝記的物語。これは完全に実在の実話に基づく小説。当局の迫害、オリガの投獄。小説の脱稿と発禁。数奇な段取りでイタリアで刊行。世界的に売れ、ノーベル文学賞・・・だがソ連内でのさらなる迫害・・・そしてパステルナークの死・・・。

    で、二つの世界の折り合いがどうも悪い(笑)。違う小説が強引に一冊になっちゃった感じ。どっちも面白いのだけど。別の本でよかった気も・・・。いちばんは、Aの物語内で、「ドクトル・ジバゴ」がそんなに大きな意味を持たないことですね・・・。

     そうなんですが、面白かった。主に僕としてはBが。なんせ「ドクトル・ジバゴ」読み終えてすぐ読んだし。「ドクトル・ジバゴ」は、ジバゴと運命の恋人ラーラの激動かつ不幸だけど感動的な物語なんですが、それがパステルナーク本人と、オリガとがモデルだったことは明白で。おそらく世界が永遠に愛するラーラとして、オリガの魂は生きていくわけですね。受難の無限連鎖の如き不幸な半生なんですが、とんでもない恍惚もそこにある。

     とにもかくにも。小説「ドクトル・ジバゴ」が出版物として歩んだ物語が目がくらむほどにドラマチックで途方もなくオモシロイ。考えてみればドストエフスキーの仕事だってロシア当局の圧力があってこそ生まれたわけで。文学の面ではロシアというのは汲めども尽きぬ興味がある場所ですね。
     (作者のラーラ・プレスコットさんはこれが第1作だったようで、名前がラーラなのはどうやら単なる偶然なのかな・・・)

  • このミス海外編2021年版9位、本屋大賞(翻訳小説部門)2021年3位。ソ連の小説「ドクトル・ジバゴ」をめぐる史実にもとずいた小説。冷戦時代の1950年代のソ連とアメリカを舞台に弾圧されたソ連の作家とその愛人、その作品を武器に情報戦を展開するCIAの女性活動化が主役。
    場面の転換が頻繁にあり年代も前後するので非常によみずらく結構しんどかった。
    解説を読んだら、とっても良い小説である気がしてきたけど、読んでるときはほとんど意味わからんままでした。残念。

  • 緊迫感のあるスパイものかと思っていたが全然違っていた。これは2つの異なる恋愛小説だ。国と時代に翻弄される2つの恋の物語。登場人物たちはそれぞれの結末に納得しているようだけど、読者としては救いようがなくて後味はあまり良くなかった。

  • 数年前より積読で、今回やっと読むことができた。パステルナークのドクトルジバゴの出版と聞けば知ってる方も多いと思うけど、ソ連の圧政の中での作家生活と愛、そしてノーベル賞授与と辞退劇、西側では現実にあったCIAによる逆輸入作戦など、発禁本をめぐって、東西両極の歴史的視点から、ドクトルジバゴのテーマ「戦争や革命であっても決して愛は失われない」そのものがこの小説の中でもい活きていて、東西それぞれで形は大きく違うけど、愛と運命を高らかに謳いあげた大河の物語、大変感動した。物語の骨子は歴史的事実にほぼ沿っているなかで、近年公開された機密文書には黒塗り部分が多く、そこを創作で膨らませて素晴らしい小説に仕上げたとのこと。現在からみると東西冷戦の時代は、重くて暗くて苦しい時期の印象でなんだか読みにくそうと思って手をつけていなかったわけだけど、そんなことはまったく無く、ミクロの視点から描く時代は大変印象的で、時間をかけずに一気に読み進めることができた。それぞれの愛の物語もかなり苦い味わいになっていくが、中途半端に終わらず最後まで描き切ったところは素敵だと思う。本の力を信じることができる佳品。

  • ペンは剣よりも強し。
    本は世界を変えることが出来る。
    そう信じた人と、それを支えた人たちの物語。

    ”あの本”とは、ロシアの実在の作家ボリス・パステルナークの”ドクトル・ジバゴ”。

    ロシア革命さなかの恋愛小説が、祖国ソ連では国に害すると禁書となり、国境を超えてこれを発行し読み継ごうと人々は画策する。
    「東」ソ連側は作家パステルナークの実在の愛人オリガと彼らを取り巻く家族や国家権力者たち、対して「西」側はアメリカの国防組織CIAとそのスパイたちが禁書を手に入れ、ソ連に革命を起こそうと紛争する。

    デビュー作にも関わらず、アメリカの出版社陣が出版権を競い合い、結果200万ドル(2億円)もの値が付いたとの話題作。
    フィクションながら、解説内の参考文献にもあった実在の愛人オリガやイタリア人出版社フェルトリネッリの本も、読みたくなる。

    『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬
    『ベルリンは晴れているか』深緑野分
    に引き続き、戦争下で逞しく生きる女性に心打たれた一冊。

  • すごかった。ワクチン副作用で意識朦朧としていたけれど、途中にやめられなかった。すごかった。

    オリガの一途な愛に感動したし
    サリーの復讐には快哉。たとえ祖国を裏切ろうとも。先に裏切ったのは彼らだし。

    ヘンリーはクソすぎる。男にだけ優しいタイプ。よくいる。ホモソーシャル典型。

    サリーとイリーナは結ばれたのだろうか。幸せだと良いなあ。たとえサリーが捕まったとしても。

全6件中 1 - 6件を表示

ラーラ・プレスコットの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×