歴史学のトリセツ ──歴史の見方が変わるとき (ちくまプリマー新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • フランス史学者の小田中直樹による新書。歴史学の歴史を追い、パブリック・ヒストリーの取り組みを提案している。本書を読むことで、歴史学はどのような問題意識や考え方に基づいて発展してきて、どんな目的や方法論を持ち、どんな批判があり、今はどんな風な動きをしているのか、の概要を知ることができる。特に著者は、最近の動きの中で、パブリック・ヒストリーと呼ばれる考え方に注目して紹介しており、これについても考え方の大筋が分かって面白い。これは、これまで暗黙の前提であった、歴史専門家は正しい知識を持っており、非専門家(一般人)に対してこれを教え込む、という上下関係を前提とせず、むしろ水平の関係の中でコミュニケーションを通して、歴史に関する理解を深め、パブリックでより確からしい歴史に近づいていくという取り組みである。

    ものすごくスイスイ読めて、かつ歴史学の大まかな流れを知るのにものすごく良くて、いい本だなと思った。
    要は、事実を記述することを目指して科学的な方法論(おおまかに①適切な情報ソースの発見→②情報の精査→③情報の記述)を確立し、実証主義・公文書至上主義・資料批判を中核にするランケ学派が現在までの中心のパラダイムとなっており、それを批判する形でマルクス主義史学や、比較経済史学が生まれたり、ポストモダニズムの流れの中でソシュールの言語論的転回批判を受けてジェンダー史学や記憶研究なども進んだり、ナショナルヒストリー偏重への批判からグローバルヒストリーが生まれたり、、、いろんな展開があったことがわかる。

    あと、名前はこたなかさんかと思ったら、おだなかさんだった。

  • 簡潔に歴史学のおこりから現在の潮流までをまとめている。平易な文章で読みやすい。歴史学、歴史に関心がある人だけでなく、誰でもすぐに読めるとっつきやすい本。
    ランケによる歴史学の科学化、アナール学派や世界システム論、労働史学、マルクス主義歴史学などの登場による歴史学の視点の変化、ポストモダニズムにおけるポストコロニアルや言語論的展開の導入と変化とまとめ、記憶論やパブリック・ヒストリーなど最近の流れをおさえている。巻末の書誌情報から関心を持った学派、潮流についても調べられる。

  • 歴史学の歴史がわかる本。学生さん向けに書いているので、入門書に良いです。歴史の教科書がなぜ退屈なのか? 歴史小説の方が面白いのでは?という疑問もこういう背景があるのかと思いました。
    巻末にブックリストがあると良かったです。

  • 歴史の教科書および学会がいかにランケの実証主義歴史学にとらわれているかが分かった。

    本書のポイントは以下の通り

    ランケ歴史学の実証主義の要諦は「資料を収集して批判して著述する。」
    ということである。

    ・集める資料はあくまでナショナルヒストリー
     公文書主義ともいえる。口頭、音などは資料とは定義されない 
    ・史料批判
     同時代の公文書(資料)を比較することで資料の定義、事実を定める。
    ・科学主義
     相互比較の中の史料批判は地道な作業を必要とする。
     専門資料を読める読解力(古語や外国語)など専門家的役割を必要とし、解釈を要しないことから
     素人は排除する科学的アプローチとも言える。
     解釈を必要とする歴史学は科学的アプローチと相容れない。
     理数系のコンプレックスがランケ実証主義に向かわせるのではとのこと

    ランケの実証主義は結果、教科書に代表される無機質で面白みのないものとなったという。
    教科書はイコール学会の動きとなり、歴史学の魅力が減じることになった。

    自身は教科書を何度も読むことでhistory(物語)を感じることができたが、
    おそらく、漫画日本の歴史や大河ドラマ、小説、ノンフィクションを読むことがスキーマとなっていたと思われる。
    教科書以外のかたりべがいないと面白いと思えないだろう。

    面白いと思われる物語を減じることが歴史学に近づくことになるのは大いなる皮肉である。
    様々なアプローチをしているようであるが、実証主義の牙城を崩すのは難しいようである。

  • 『歴史って面白い?』を軸に歴史学について解説されている。
    本書を読む限りまだまだ歴史が面白くなることはないように感じた。

  • 歴史学の歴史を知ると...

    歴史学の発展を歴史を遡りながら見ていくもの。今年度から「歴史総合」という科目がスタートするが、教科書を執筆するときに直面した限界や歴史を整理する際の視点が様々あると知った。歴史を整理するにはいろいろな方法があるらしい。客観的事実を重んじるのか、それでは拾いきれない庶民の声をより広く反映するアプローチを取るのか。過去から現在まで客観的な事実を重んじる方が優勢であり続けているらしい。英語学にも同じようなこともあるかもしれないと思った。

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著者プロフィール

1963年生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科単位取得退学、博士(経済学、東京大学)。東京大学社会科学研究所助手などを経て、現在、東北大学大学院経済学研究科教授。専門はフランス社会経済史、歴史関連諸科学。著書に『フランス7つの謎』(文春新書)、『フランス現代史』(岩波新書)『歴史学ってなんだ?』(PHP新書) 『歴史学のアポリア――ヨーロッパ近代社会史再読』(山川出版社)などがある。

「2022年 『歴史学のトリセツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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