禍 [Kindle]

著者 :
  • 新潮社
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感想・レビュー・書評

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  • なんという奇想。なんという濃密な文章。途轍もない想像力の生み出した悪夢のような異界を描いた七編の短編集。現実にはありえない、それでいて、すべて明晰。どの作品どの頁どの行を読んでも素晴らしい、はたしてこんな奇跡のような文章がこの世に生まれ得るのものだろうか。今年度ベスト、いや、もしかすると生涯ベストかもしれない。この世には二種類の人間しかいない。小田雅久仁『禍』を楽しめる人間と楽しめない人間と。楽しめない人間とは口もききたくない。それは大袈裟だけれど、友人にはなりたくない。そんなふうに思わせる一書。

  • よくこんな気色悪い話思いつくな〜
    文章力があるのでゾワゾワした。
    不条理文学の類。

    食書と耳もぐりは共感もした。
    百も千もの人生… 小説を好きなのはそんな欲望でもある。

    読みたくないけれど、読んでしまう
    あまり覗きこみすぎないように気をつけながら。フェティッシュより根本的な生命危機とした禍々しさだ。
    五感を刺激する現代版アートともとれるし
    エログロと片付けてしまいそうにもなる。
    これは欲望を具現化した悪夢のよう。

    裸婦と裸夫は禍の類なんだろうか?
    寧ろ幸いでは…
    ちょっと滑稽で笑えた。


  • ホラーというより、奇妙な話の短編集という感じ。確かに「わざわい」というタイトルの通りの話が多い。自分としては、まあまあだった。

  • 『熟成された文章力の凄みを感じる奇書』

    タイトルや装丁からもわかるとおり、身の毛もよだつ禍々しさが前面に押し出された作品。内容もそれにたがわずホラー要素を感じる7話が収録されたダークファンタジー短編集である。

    いずれの作品も始まりは静かに迎える。主人公は20~40代の男女。境遇は似通っており、少しうだつの上がらない、どこにでもいるような普通の人物たちだ。ところがどっこい。五感を刺激する"何か"との出会いをきっかけに、物語は思いもよらぬ方向へ急展開していく。物語の入口から出口がまったく想像できないラビリンス構造である。著者の想像力、いや創造力に圧倒される。

    個人的に小田雅久仁さんは2022年の本屋大賞にノミネートされたことで、前作「残月記」が初読みの作家さんである。ディストピア的な世界を描くという点で作品のテイストは残月記にも近しいが、今作はさらに暗黒感が磨かれている。

    しかし、調べてみると本書は2011年~2022年まで小説新潮で連載していた作品を書籍化したものであるという。つまり残月記よりも前に書かれた作品が多く含まれているのだ。それでいてストーリーにまったく古めかしさは感じない。むしろ初出から10年以上の時を経たことで、文章が熟成されて重みや凄みさえ感じる。

    2009年にデビューした小田雅久仁さんは寡作な作家でもある。それもまた魅力。背筋が冷たくなるのに読後もなかなか記憶から消えてくれそうにない。読むことで何かを得るというよりも失う体験をぜひ味わってみてほしい。

  • えぐい位面白かった。視覚・聴覚・嗅覚など五感全てを刺激する異形の短編集。流麗な文章と奇怪な想像力によってまばゆい闇へと連れて行かれ、後ろめたい快感がもたらされる。日常から始まり、闇に触れ、魂がよろめく瞬間の恍惚ときたら……!!とろける程の奇想と禍がここに。

    7編どれもこれも面白い。それぞれが「耳」だったり、「鼻」だったり、「髪」だったりと「身体」に関係する話を扱っていてスーッと入り込める。一旦話に入り込んだあとは、主人公たちと同じく抜け出せなること請け合いで、ゾワゾワ快感に浸りながら一気に読み終えた。正直もっとゆっくり味わいなおしたい位好き。

    本当に7編それぞれ良さがあるので甲乙つけ難いけど、あえて選ぶなら「食書」が好み。「読む」ということ自体が題材になってて、短編集の導入としても完璧。いやー、こんなムンムンに匂い立つ小説あんまりないですよ。個人的には今年ベスト級の本でしたのでおすすめもおすすめです。

  • 2023年で最高の日本のSF小説。肉体のそれぞれのパーツを主題に妖怪化していく人々を短編としてまとめた1冊。作家の闇深い想像力に基づいて選ばれた言葉ひとつひとつが現実と非現実を編み込んでいく。それはもはや呪いの三つ編みのようで。展開にも勢いもありあっという間に読み終えてしまった。いい時間だった。

  • 太宰治の自意識過剰な私小説と阿部公房の不条理を足して2で割った印象。

    作者本人が実際に経験したのではないかというほど生々しい描写。夢や妄想がどこまでも広がり現実を飛び越えていく。

    短編数編あるのだがどれも序盤のつかみがうまくグイグイと読み進めたくなる。が漢字が難解で(ルビが多いので助かる)1段落と文章が長くページが真っ黒で読むのに骨が折れる。オチはえっこれで終わりというものが多い。

    比喩やオノマトペが多彩で一文一文が踊るよう。その表現を思いつくのにどれだけの労力がかかっているのだろう。まさに命を削りながら小説を描いているのだろうという作者の鬼気迫る心が伝わってくる。

    ホラーのようでSFのようで純文学であるのかもしれない。

  • 小田雅久仁氏のすっかり虜だ。ほんとに面白い。夢中になって読んだ。一編目の食書が特に私を妖しく幻惑させる。本を食べるとその世界に入り込むことが出来るという奇譚。いやはや著者の筆力には驚かされる。主人公が最初に食べる小説は『夜更けのマンションで起こること』というタイトルだ。作中の表現を借りるならば、『このぽろりぽろりとしきりに改行する兎の糞みたいな文体に気が散って』というように、短い文章が改行で並ぶ、薄っぺらの小説だったのが、主人公が食べると、その小説世界は我々の前に突如として生き生きと立ち現れる。まさに体験だ。あの改行だらけの軽薄な小説が、これほどにも豊かでしかも鋭い輪郭を持ち、匂いも手触りも感じられる小説に生まれ変われるとは…
    小田氏の比喩表現も秀逸である。例えば『女が笑った。にちゃっと音がしそうに微笑む』 『曲がらぬものを曲げるような固い会釈』などなど、思わずメモを取りたいほどの比喩表現が多数あり楽しいのだ。

  • 他の評価でもさんざん書かれているが、表紙やタイトルから想像されるようなホラーではなく、公房的な不条理文学。

    最初の3篇くらいはパンチが弱く感じたが、「農場」あたりから話の禍々しさが増して俄然面白くなった。

    作者がノリノリで描いてるのが伝わるドライブ感全開の脱衣衝動描写と、オチの壮大さとの落差が(いい意味で)ひどい最後の話が特に好き。

    短編がそれぞれ、口、耳、目、肉、鼻、髪、皮膚と人体の部位がテーマになってるのも面白い。

  • 表紙のインパクトと推薦文、タイトルに惹かれ読み始めたが、テキスト版の世にも奇妙な物語。それ以上でもそれ以下でもない。 食書と耳もぐりまで読んだが、こんなのがずっと続くのかと思うと時間が無駄に感じれれたので読了断念。

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著者プロフィール

1974年生まれ、宮城県出身。小説家、ファンタジー作家。関西大学法学部政治学科卒業。2009年『増大派に告ぐ』で、第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビューした。2013年『本にだって雄と雌があります』で、第3回「Twitter文学賞国内部門」の第1位を獲得した。

小田雅久仁の作品

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