52ヘルツのクジラたち【特典付き】 (中公文庫) [Kindle]

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  • 中央公論新社
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感想・レビュー・書評

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  • 自分は大切なひとの魂の番になれているのだろうかと考えて、きっとまだなれていないと思ってしまいました。大切なひとと心が通う会話をしてみたいと感じました。

  • 以前から話題にのぼり、しばしばそのタイトルを耳にすることがあった『52ヘルツのクジラたち』をとうとう手にした。「とうとう」というのは、読んでみたい気持ちと話題作なだけに期待が大きすぎて「それほどでもなかった」という感想を持ったらどうしようという気持ちが、長らく相半ばしていたからだ。
    期待してよかった。
    本作の前に、『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』という短編集を読んだときにも感じたが、町田そのこの描く物語は、とても穏やかな雰囲気で物語が進むけれど、実はとてつもなく不穏である。ともすると淡々と紡がれたようにみえる文の重なりに、とても残酷な記述が紛れている。あたたかな気持ちで読み進めても、いつしか心がざわつき、その引っかかりが物語を読み進める駆動力となる。

    『夜空に泳ぐ~』は短編集だったけれども、本作は長編である。物語は一見静かに見える大海が絶えず波打っているように、時に大きく、あるいは小さく、しかし確実に波が寄せては返している。
    タイトルにもある通り、モチーフは大海原にたった一頭で孤独と闘うクジラである。そのイメージに重ねて、登場人物の波乱に満ちた来し方と今が描かれる。それぞれの孤独を抱えた登場人物は、互いの孤独に抗いながら、相手の孤独をも共有し、相手を救済しようとする。孤独同士のハレーションが起きる。
    孤独のハレーションが起こす奇跡ともいうべき過程を、決してファンタジーにすることなく、冷静な視点で見つめ、紡いだ物語が本作といえるのではないだろうか。

    孤独な人たちが読むものに伝えるのは、助け合うことの美しさだ。
    孤独に陥るのにも、当然理由がある。さまざまな事情と多くのこれまでの障害を乗り越えて、たまさか邂逅した孤独な者たちは、その種類は多かれ少なかれ異なっているけれど、自分の抱える「孤独」の匂いを相手からも嗅ぎ取る。本来、孤独とは誰とも出会わない、あるいは誰にも理解されない、ときにその存在さえも認識されないことを指す。それらが出会ったときに、その邂逅がもたらす化学反応ともいうべき出来事を可視化したのが本作だと思う。

    残酷であり、不穏に満ちた小説。だが、真に不穏なのは、その残酷さが表面化されず、絶えず物語の底面にたゆたっているところにある。毒のある虫や動物は、おのが毒性を、文字通り毒々しい姿かたちや生態で表現する。毒による直接的な攻撃は最終手段であり、大抵は視覚的なアピールによって敵を排除する。
    その点、本作は毒を隠す。美しい花に近づいたら、実は見えないほどの小さな棘が待ち構えているように、直截に残酷さをアピールしたりはしない。いつしか心に不穏なものがしみ込んできて、しかしそれはやがて人が持つ温かさによって寛解する。

    52ヘルツの周波数しか発することのできないクジラのごとく運命に翻弄され、理不尽な社会の現実に耐えるしかなく、心も身体も満身創痍で生きている人たちを描くこの物語は、その温かさゆえに救済となる。本作を読む者は、きっとどこかで登場人物と自分を重ね合わせるにちがいない。その読書経験は、共感を生むだろう。読み進めるうちに、いつしか登場人物(とりわけ主人公の二人)が愛おしくなる。
    孤独を自覚する人はもちろん、多くのノイズが満ち溢れた生きづらい今の社会を生きるすべての人にとって、本作はゆえに福音となるだろう。

  • 久しぶりに、小説を読んでいて
    泣きそうになった。
    52ヘルツのクジラという作品名
    がぴったりなストーリー。
    町田その子は、お初の作家だっ
    たが、読みやすく、会話のテンポ
    も良かった。
    海沿いの田舎の風景が目に浮かぶ
    ような描写。
    自分と同じような境遇に陥ってい
    る中学生をなんとかして、救うべ
    く行動を取る中、かつての主人公
    の過去が少しずつ浮かびあがる。
    切な過ぎる。
    この作品は、杉咲花が主人公とし
    て映画化されるようだ。
    泣かされる映画になると思う。

  • 本屋大賞で話題になっているので読んでみた。
    題名を見て、すでに読んだような気がしたが、本棚を確認すると未読だった。
    TV等で
    映画化の宣伝とか、本屋で見て知っていたのかもしれない、勘違い。

    読み始めて、なんなんだ酷い目に合う人ばかりで、果たして救いはあるのか?
    そんな感じだった、
    でもよく考えると、現実に自分の子供を殺してしまう、最悪の親がいることも事実ではあるし、あまりにも非人道的なことがあるのも現実の一部かもしれないと思った。

    救われる人、救う者、生きていることで人生は変わっていくこと。
    それさえ信じていれば何か起こるのかなと思った。

    読み終えた感想は、良かったです。
    やっぱり、プロの作家が選ぶ小説の賞も貴重なんだが「本屋大賞」の様な読み手側が選ぶ賞は面白いな!

  •  現代の社会で起きている様々な問題が、登場人物一人一人の背景を大切にしながら絡み合い物語として表現される事で、改めて身の回りで数多く起こっているのかもしれない、個々の生きづらさのようなものを考えていかなければならないと感じさせられました。
     ただ、そのような中において、生きづらさを訴えるために発している声にならない音を、もし、しっかりとキャッチ出来るような人々が存在する社会になれば少しでも希望が見出せることにつながるのだと思いました。
     自分自身もアンテナを高くしながら声にならないような救いを求める声をキャッチ出来るような人でありたいと感じました。

    • はねさん
      りょーまさん、私も同じくそうゆう人間でありたいと思いました!また映画も一昨年見に行きましたが死ぬほど泣きました笑
      りょーまさん、私も同じくそうゆう人間でありたいと思いました!また映画も一昨年見に行きましたが死ぬほど泣きました笑
      2024/03/13
  • この本の状況に登場してくるように、世の中には親の離婚 や親からの暴力、暴言により、子供が深く傷ついてしまうこともたくさんあるんだろうなと思う。そういった同じような状況を抱えた2人の心の交流を心温まる物語として描いている。主人公の場合、真の理解者が友達にいると言うところは救われた部分だと思う。自分には「魂のつがい」見つかるのかなあ?と読み終わった後、思った。

  • ストーリー展開に現実感がない。そんなに簡単に世の中暴力沙汰になるのか、かとおもえば赤の他人に親切になりすぎる主人公と、主人公の友人。殺伐とした現実ではあり得ないと思いつつ、人と人は支えあい、もらう側から与える側にならなければいけないという一貫した主張をよく描いている。

  • ある出来事を背負いきれずに全てを捨てて逃げ出したキナコは、そこで言葉をしゃべれない子どもと出会う。

    本を読む前にはあまりレビューやあらすじなどをチェックしないので、この本も内容を知らないで読み始めました。が、早々に「ああ、これは重いやつだ」と分かってしまったのですが、物語に引っ張られるように最後まで読めてしまいました。
    本当かどうか、ちょっと調べてみたいと思うのですが、52ヘルツのクジラというのは、他のクジラの鳴き交わし(会話)の周波数とは異なる、52ヘルツで鳴くクジラとのことで、周波数帯が異なるが故に仲間とコミュニケーションが取れない個体なのだそう。これはこれで興味深いですが、生物学的に見ればコミュニケーションが音波(鳴き声)だけとは限らないので、そこまで孤独なわけではないと思うのですが、まあそこは置いといて。
    この本では登場する主要人物が何かしらの傷を持っていて、その叫びがどこにも届かない故にとても苦しい状況に陥ってしまう、という、人として特殊でありながら普遍的でもある「孤独」をテーマにしているのが面白いと感じました。差別や格差、虐待、ジェンダー、人が抱える事情は様々で、小さなことでも大きなことでも、大抵は誰にでも他人には聞こえない叫びを上げたことがあるはずです。そんなことが心に引っ掛かりながら、ああ、この本に出てくる彼女も、彼も、きっと52ヘルツのくじらなのだなあ、と思いながら読みました。
    テーマは重いですが結論は希望に満ちていて、小説としての体裁もあるので「いやいやそれは」という展開もありますが、とても読みやすく、読後感も良かったので重いだけのお話になっていないところが素敵でした。町田さんの本はこれが初めてですが、他のも読んでみたいと思います。

  • 話題作でもあり感度の鋭い作家さんのためワクワクしつつも覚悟して読み進んでた
    物語は入り込みやすくどこかリアルで世界は厳しく地獄に落とされたようなところから水を得また与えていくストーリー
    自分に身に覚えのあるまた重なると感じる場面から人と人の築き方を認識した気がする、ただキナコがどおしてもその判断はしないだろうと思ってしまう場面があったことが気がかりでした
    読後感は温かく何かしら生きる糧が貰えたしあと声を出すこと52ヘルツのクジラの声を実際調べた人も多そうだなと思った
    以下ネタバレ好きなフレーズ(引用)
    たった一度の言葉を永遠のダイヤに変えてそれを抱きしめて生きているひとだっているという
    いい加減そのうるさい口を閉じろよ、おばさん
    ひとには魂の番がいるんだって愛を注ぎ注がれるようなたったひとりの魂の番のようなひと

  • 親から子への虐待の描写が読んでいて辛く、キツイなと思ったけれど、そうやって目を背けたくなるようなことが現実にもきっと今もどこかで起きている……。
    もしかすると52ヘルツのクジラたちは今もどこかでたくさんの叫び声をあげているのかも知れないと考えると、何も聞こえない場所にいることが悔しくすらなる。

    そして他人事ではなく、もしかしたら誰しも内容は様々で本当は誰かに聞こえて欲しい誰にも聞いてもらえていない「声」をあげている時もあると思いました。
    内容は重い部分はあっても読みやすく、前向きで心を浄化してもらえるような澄んだ作品です。

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著者プロフィール

町田そのこ
一九八〇年生まれ。福岡県在住。
「カメルーンの青い魚」で、第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。二〇一七年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。他の著作に「コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―」シリーズ(新潮社)、『うつくしが丘の不幸の家』(東京創元社)などがある。本作で二〇二一年本屋大賞を受賞。
近著に『星を掬う』(中央公論新社)、『宙ごはん』 (小学館)、『あなたはここにいなくとも』(新潮社)。

「2023年 『52ヘルツのクジラたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

町田そのこの作品

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