パチンコ 下 (文春文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • チェックしたきっかけは2021年のこのツイートをみたこと:
    https://twitter.com/nanjingniitayo/status/1378528385249374208

    在日コリアンのルーツが描かれた作品とのことで、20世紀の日本を在日コリアンの視点からみる場合に、ということでリストに入れていた。それら「表」ではない日本社会を知っておきたかった。

    全米図書館賞最終候補。オバマ大統領も推薦。


    ## ■全般感想

    で、いざ読んでみたらメチャクチャ面白かった。
    1910年代の日本統治下から物語は始まり、1930年代の釜山の貧しい下宿屋の描写が丁寧に描かれていてまず面白い。貧しい生活の様子、衣食住の様子が、時代の雰囲気をよく感じさせてくれた。

    そんななか、視点人物を変えつつ描かれる彼らの描写もおもしろい。『テスカトリポカ』のように背景設定・職業設定とかキャラクターがとがっている、というわけでは決してないのに、それぞれの真面目な人物が、なぜか興味深く描かれるのは不思議。いわゆるサスペンス的なテクニックでもないのに、どんどん先に読むことができた。

    そうして、物語が戦後の日本、太平洋戦争時、そして戦後復興期までシームレスに続いていくことがおもしろい。価値観変遷とか、ドラスティックな描写ではないものの、確かに時代は遷っていく。コ・ハンスの暗躍こそあったものの、それぞれの時代でなんとか生活していく苦しい様子も読みごたえがあった。

    コ・ハンスの暗躍ぶりはさすがにフィクション的だが、そこは「お話」として受け入れる。池田秀一の声で脳内再生される。

    一方で下巻になると、自分も知る日本社会が立ち上がっていく。金持ちになったモーゼスや、インターナショナルスクールに通いバブル期を迎えるソロモンの様子をみるにつけ、戦前の掘立小屋の生活との隔世の感がものすごい。が、そうした時代の変遷が全編通してシームレスに描かれていた点にも醍醐味があった。こうした物語がまさに読みたかった。

    ノアの死には衝撃を受けた。読者的に期待というか注目した優れた人物が、あるときいとも簡単に死んでしまう。文学でよくある展開だが、その喪失感は大きいし、驚きがあった。

    それでもモーゼスやソロモンへと系譜は繋がれる。フニとヤンジン、ソンジャ・イサク・ヨセプの苦労とハンスとの関り、ノアとモーゼス、そしてソロモン。四代にわたる物語は、まさに大河的な壮大さがあった。

    フィービーのような「家事をしないことの美徳」なり、カズらの成金的な世界観と、苦労をし正直にただ生きてきたソンジャらとの対比は皮肉だろうか。

    ラストでノアが墓参りに来ていた事実にも驚きがあり、素晴らしい読後感だった。
    互いに惹かれ続けたソンジャとハンスが最後まで和解しなかったことは残念だったが、しかしそれは人生の在り方として心に残る。



    ## ■移民というテーマについて

    「移民問題」はひとつのテーマでありつつ、自分としてはこのテーマの観点ではあまり深くは読めなかった。それよりも群像劇としてのおもしろさが勝った。ただこの「移民の物語」という切り口については、解説の次の文章が非常に参考になった

    ・異国に移住した一世と二世が異なる部分で苦労するというのは、実はどの国の移民にも共通している。この小説がアメリカで多くの読者に読まれ、高く評価されたのは、この部分にあるのかもしれない。
    ・アメリカは、先住民以外はすべて「移民」とその子孫だ。何世代か遡れば、必ず移民としてのこうした苦労ばなしに行きあたるはずだ。こうしたアメリカ人のDNAに刻み込まれた記憶が、小説への共感を生むのだろう。
    ・裕福で政治的に保守的な夫の家族は、悪気なく差別的な発言をするのだが、日米の血が混じったわが娘のほうが、私よりも過敏なところがある。それは、差別を覚悟で移住した一世の私と、祖国を自分で選ぶことができなかった二世の違いなのかもしれない。

  • 4世代に渡る在日コリアンの壮大な物語。著者は30年かけてこの小説を書き上げただけあって、余計な装飾や言葉は削ぎ落とされ、内容とは裏腹に淡々と物語が進んでいくよう。行間の深さは読み手の感性に委ねられているようで読んでいる間はこの物語の中に没入してました。

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