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感想・レビュー・書評
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日本の歴史上、首相経験者が逮捕起訴された初めての事件であるロッキード事件。
ロッキード事件とは、アメリカの軍事/民間用航空機を製造していたロッキードが、ANAの調達航空機の選定において、フィクサー児玉誉士夫、ロッキードの日本の代理店である丸紅らを通じて田中角栄に賄賂を贈り、結果的に彼らの航空機であるトライスターを発注したことに関連した一連の収賄罪である。
本件は、ニクソンのサポーターをしていたロッキードに対し、海外での数々の収賄の疑惑についてチャーチ議員が徹底解明する中で突如として明らかになった。
当時から冤罪の噂は絶えなかったが、本作で明かされる事実を見ても、あれは世論によって作り出された完全なる冤罪で、黒幕は他にいたのではないかと思われる。
権謀術数を操る議題の外交家であるキッシンジャーの謀略、政権維持のために資金が必要なニクソン政権、奇妙な動きを繰り広げていた中曽根康、そして何より怪しいのが佐藤栄作。
今となってはその事実を明らかにすることは甚だ難しいが、被告人である田中角栄の死をもって、事実上捜査打ち切りとなった本事件は、関与者の誰かがもう少し長生きしていれば結果は変わったものと思われる。
願わくば、稀代の叩き上げ政治かである田中角栄の真の業績に光が当たり、その名誉が回復されることを願う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
真相は闇の中だが、角栄が本当に賄賂を受け取ったのかという視点で関係者の取材を進めて行く。
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田中角栄氏が逮捕されたロッキード事件、当時私はまだ小学生でほとんど事件の内容を知りませんでした。
本書はロッキード事件に正面から取り組んだ、文庫本で600ページに及ぶ超大作です。著者は経済小説を数多く執筆されている方なので、非常に複雑に入り組んだ事件の全容を、読みやすい文章で紐解いていきます。
本書は3部構成。第一部は田中角栄氏がのし上がっていく経緯を追い、田中角栄氏の人物像に迫ります。第二部はロッキード社が丸紅を通じて賄賂を提供したとされる「丸紅ルート」の検証です。第三部は、”もう一つのロッキード事件”と呼ばれる、航空自衛隊の対潜哨戒機選定をめぐる”児玉ルート”の詳細に迫ります。
ロッキード事件と聞くと、「全日空の次期旅客機選定をめぐりロッキード社が自社のトライスター機の売り込みに際して賄賂を提供した事件」と認識していましたが、本書によるとトライスター機の商談が20数機で総額1000憶円規模の商談だったのに対し、次期対潜哨戒機のビジネスは総額1兆円を超える規模であり、ロッキード社からみると後者が商談の本命であったのではないか、との視点があります。より大きなビジネスでの贈収賄から目をそらすために、ロッキード社とアメリカ政府が生贄として田中角栄氏を選んだのではないか、という仮説が成り立ちます。
一方、有罪となった裁判の経緯についても、物的証拠よりも関係者の証言が重要視されていて、現在の裁判の基準から判断すると田中角栄氏の有罪は覆るのではないか、との見方にも触れています。
これらの可能性に向かって、多くの関係者の証言や公開資料をたどって行くのですが、著者が取材に取り掛かっていた2018年前後において、すでに当時の関係者はほとんどが90歳近い高齢だったり、すでに亡くなっていたりしていて、結果として真相にはたどり着けていません。
しかし、ロッキード事件を様々な角度から再検証する本書は(他の書籍は読んでいませんが)決定版と呼んでもよいのではないかと思えるほどの情報量でした。