ドキュメント 異次元緩和 10年間の全記録 (岩波新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 実に興味深い本でした。
    ここ10年間の黒田日銀の「異次元緩和」の全貌を余すところなく記載されているように感じましたね。
    とりわけ「金融経済」だけではなく、安倍自民党総裁の政治の動きなどは、新聞などでは決して読めない裏舞台の動きであり、ドキドキする思いを持ちましたね。
    しかし、「金融政策」とはなんと不可思議なものであることか。
    これだけのエリートの専門家が英知を結集しても、正しい答えがわからない「学問の領域」があることには驚きましたね。
    そして、本書の最後の「筆者なりの暫定評価としての私見」がまた興味深い。
    「円相場・企業収益・株価・失業率・雇用者数」は黒田が胸を張る「戦果」。
    その反面の「潜在成長率低下・1人当たりGDPのG7最下位・名目GDPの4位転落・1人当たり労働生産性の低迷・平均年収の韓国以下・円安資源高産業空洞化による貿易赤字の常態化・物価上昇による国民の生活水準の低下」をあげて、国民の暮らしが良くなったり国が豊かになったとは言い難いと、著者はかなり辛口の評価をしています。
    そして、その「戦果と辛口評価」の全てが事実なのですから「金融政策」というものは面白いと小生は思いましたね。
    本書は、専門的であるにもかかわらず、小生のような素人にも読めるようにひも解いた良書であると思いましたよ。

  • 黒田日銀の10年の歩みを振り返る一冊。華々しいバズーカから、思うようにインフレが上がらないことへの苦しみ、追い込まれたようなマイナス金利。これが銀行業界への強烈な副作用に繋がり、慌てて苦肉の策でYCCなるものを作り出したら今度は債券市場が壊れてしまった。著者も指摘していたが、緩和の御旗も降ろせないが副作用には対処しなければという「倒錯した思い」が交錯し、金融政策がもはや国民の大半が(そして市場参加者でさえも)よくわからない怪物になってしまっていたというなんとも悲劇的な物語。我が国のことであるが…。

    何気に本書で一番読み応えがあるのは黒田日銀ラスト1年の軌跡。なぜ22年12月にYCCの事実上の引き締めに踏み切ったのか。あれだけ「粘り強く緩和」と憑かれた様に繰り返していたのに。裏にはやはり円安とインフレに焦る政権からの圧力があった。しかしそれ以上に、日銀内部から、それもこれまで政策の設計を担当してきた企画局ラインからの声があったという。インフレが思いがけず上がってきて、「YCCは不要になってきた」と。ここまではわかる。しかし「早くやめないと市場のJGB売り圧力に屈したように映る」ことを気にしていたという。そして植田総裁が23年7月に同じくYCCを「骨抜き」にする調整を実施した時は「(マーケットに負けた印象を出すことなく)よくやった」と喜んだという。なんというプライドの高さ。これが官僚の無謬性ということか。間違えたという結果を残したくない、そんなくだらない自尊心を、国民にとっての最良な政策判断と天秤にかけたというのか。めまいがしたが、しかしあの不可解で唐突なYCC調整、そしてその後のムキになったような連続指値オペの真意が見えた気がした。

  • 20240218-0303 異次元緩和は2013年3月に日銀総裁に就任した黒田氏による大胆な金融緩和政策の総称。本書は黒田日銀総裁の10年をその誕生から退任、植田新総裁にいたるまでのドキュメンタリー形式で検証している。関係者の発言や著者の取材による舞台裏の書きぶりが生々しい。現在の金融政策についてもわかりやすく解説されていると思う。人事に始まり人事に終わる、というか人事が続くという感じ。それにしても黒田氏の私の履歴書は拙速だなと、私も思った。

  • 2024/02/17「ドキュメント異次元緩和」西野智彦
    10年間のアベノミクスの記録 壮大な社会実験
    日銀黒田総裁の金融政策を中心に経緯を記録
    政策の継続・変更についての意見の交錯や理論的背景についての著者の見識は素晴らしくレベルが高い。
    また時々の人事情報と経済思想の背景が説かれているのも興味深い。特に日銀総裁の人事は総理の専管事項となり、黒田東彦総裁→植田和男新総裁71歳
    雨宮副総裁は学者専門家・Dr・英語で議論を要件!
    3割学者7割Dr保持 (白川総裁は満たしていた?)
    ⇒世界の常識! 日本の素人談義を脱却!
    [10年の総括]巨大なBS築く=リスク
    国債保有576兆円(54%)
    ETF  54兆円
    円相場 94円→151円 136円
    企業収益 倍増
    日経平均 12,000円→30,000円台
    失業率 2%台半ばへ低下
    新規雇用 430万人増加
    潜在成長率 0.8% 0.3%へ低下 生産性
    一人当たりGDP G7最下位
    名目GDP ドイツに抜かれる

    [国債投機への敗北三例]
    ①1992年イングランド銀行vsジョージ・ソロス
    ②2015年スイス国立銀行
    ③オーストラリア準備銀行
    [日銀生え抜きの悪い癖]
    まったく同感&ITショック リーマン・ショック 
    任期中に金融緩和を手仕舞いしたがる(黒田総裁209)
    2000速水優  ゼロ金利 政府の議決延期請求
    2008福井俊彦 量的緩和
    総裁の任期と経済のサイクルは一致しない
    米国大統領選挙にも言える!
    (白川総裁)
    ゾンビ企業の延命 生産性の低迷 潜在成長力の低下
    金融緩和は長期的に弊害が大きい
    PS軽部謙介「アフター・アベノミクス」との併読を勧めたい

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著者プロフィール

西野智彦
1958年、長崎県生まれ。慶應義塾大学卒業後、時事通信社で編集局、TBSテレビで報道局に所属し、日本銀行、首相官邸、大蔵省、自民党などを担当。主な著書に『検証 経済失政』『検証 経済迷走』『検証 経済暗雲』がある。

「2019年 『平成金融史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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