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- / ISBN・EAN: 9784096263228
感想・レビュー・書評
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現役考古学者では最も尊敬している松木武彦氏の最新刊(2013年6月発行)。ラッキーにも県立図書館で1番最初に予約が取れた。
考古学者は小説家ではないので、人生の終わりにならないと自伝的な文章は書かない。自分の成り立ちを振り返らない。ここでは、氏の学問領域の方向に大きな影響を与えた二つの未盗掘古墳の経験が語られていて、松木武彦ファンとしてはたいへん興味深かった。もちろん学術的な本なのだが、読み物としても優れている。佐原真氏の本もそうだった。
古墳時代の人々は、実は周りに現在のコンビニの三倍以上、お宮の二倍の数の古墳に囲まれて暮らしていたらしい(16万基)。だから、奈良平安になると意識は薄れたかもしれないが、古墳時代の頃はまさに精神的にも経済的にも古墳とは切っても切れない日々の営みを送っていたのだという。その古墳時代のことは実はまだ多くの事が明らかにされていない。そして、その時代を明らかにする決定的に大きな発掘が表題二つの発掘である。
発掘の真髄は、掘り方ではない、記録にある。未盗掘古墳からは、破壊される前のありとあらゆる情報が復元出来るように記録が出来る(しかも、最近では上に積もった塵から有機物の布などの情報も復元出来るという)。天皇陵古墳を発掘したからと言って、別に被葬者の人種がわかるわけではないという。築造年代は既にわかっている場合が多い。わかるのは、その質と量が明らかになることだと云う。人類史上、文字が現れない以前の巨大古墳文化をつくったのは、エジプト、マヤに次いで日本だけだという。そういう意味では、その文化全体を明らかにするのは人類史上とても意義のあることだと、著者はいうのである。
そういえば、四大文明には全て文字があった。それ以前の人類の意識はどうだったのか、とても興味がある分野のような気がしてきた。
天皇陵古墳では、天皇が現人神だった明治や大正の時代にすら陵墓の治定の変更は行われ、真実に近づける当時なりの努力が払われていたのに、むしろ戦後の象徴天皇制の時代になってから治定の結果が凍結され、そのような努力が一切行われなくなったという。2013年2月の箸墓古墳墳丘の観察と踏査、13年までに行ったニンザイ古墳のすそ部分のトレンチ調査などは、天皇陵古墳の学術的調査の端緒となればいいと著者はいう。私もそう思う。
2013年7月7日読了詳細をみるコメント0件をすべて表示