ある日の朝早く起こった飛び降り自殺のニュースを取材するために「私」は青山喬介とRデパートへ向かう。「私」の従兄弟で司法主任である男から、この事件は自殺ではなく絞殺による他殺事件であるということ、被害者はこのデパートの貴金属部の店員であることを知る。被害者はその日の前日宿直職員であったため、他の9人の職員とデパートに泊まっていた。当然その9人が疑われるが…青山喬介は違った。この物語は彼独自の視点で推理していく推理小説である。
私はこの物語をぜひ皆さんに読んでもらいたい。そこで私がオススメする注目ポイントを紹介したい。
①青山喬介という男
青山喬介は「私」が2か月ほど前に、ある映画の試写会で知り合いになった男であり、この物語の主役である。かつては某映画会社の異才ある監督として特異な地位を占めていたが、日本のファンの一般的な趣向と会社の営利主義【金儲けを第一とする考え方】が合わず、映画界を隠退して自由研究家として静かな生活を送っていた。彼は勤勉で粘強であり、メスの如く敏感な感受性と豊富な想像力を持っているという一面もある。またあらゆる科学の分野にわたって、周到な洞察力と異状に明晰な分析的知力を振い、宏大な価値深い学識を蓄えていた。この紹介で彼が大変魅力的な男であることがわかる。だがさらに彼が魅力を持っているということがわかる部分がある。「私」は彼の魅力に魅了され、住んでいた下宿を引き払って彼のアパートへ、しかも彼と隣り合わせの部屋へと引っ越したのだ。普通、人はそこまでするだろうか?この部分を読んだとき、私は彼がとんでもない魅力の持ち主だということを確信した。彼の魅力はこの本を読んでほしい理由の一つである。
②予想外の結末
推理小説というのはだいたい予想外な結末であるが、私はこの物語以上に予想外な結末なものに出会ったことがない。この犯人を予想できる人はいないと思う。いたとしたら、その人に探偵の道に進むことをオススメする。それぐらい予想外なのだ。
いい意味で少し味気ないオチではあるが、「よく犯人がわかったな!」となることは間違いない。その誰もが予想することのできないオチというのが、より一層青山喬介の推理のすごさを際立たせる。
また、短い作品だからこそできるオチだなと私は思う。決して、「なんだこれ!面白い!」となるオチではないが現実で起こりうるようで起こらない本当に予想外なものなので、皆さんに読んでもらいたい。読む価値がある。本気で予想外なのだ。