天守物語 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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レビュー : 1
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  • 時代は不明だが、君主と臣下の関係が厳しいことから封建時代だと読み取れる。物語の舞台は播州姫路、白鷺城の天守、第五重。そこには富姫という美しい女の妖怪、またその侍女、女中が住んでいた。主に2つのエピソードで構成されており、戯曲であるために物語もまるで舞台の台本のように演者の動き、舞台の暗転が描かれているのがとても新鮮だ。1つ目は富姫の妹分、亀姫が富姫のもとを訪れる場面。侍女たちが亀姫をもてなすため、花を用意する場面が印象的だ。侍女たちは白露を餌に秋草を''釣る''と言う。亀姫が訪れると、土産に猪苗代城主の生首を差し出した。その礼に富姫は竜頭の兜を見せる。また、彼らは手毬をついて遊ぶ。亀姫が帰ると、2つ目のエピソードの主人公である姫川図書之助という鷹司がやってくる。彼は殿様の大切な白い鷹を逃がしたとして切腹を命じられており、それを免れるためには白鷺城の天守閣へ登り、鷹を取り戻してこいというものであった。人間界においてこの城の天守閣は妖怪が住んでいるとして恐れられていた。富姫は図書之助に二度と来るなと言う。しかし、図書之助は帰ろうとするも蝙蝠に灯火を消され切穴に落ちてしまい、また富姫の所へ戻ってきてしまう。富姫はその図書之助の丁寧な物腰に惹かれていた。もう図書之助を帰したくないと富姫はいうが、図書之助は迷いながらも人間界へ帰ることに決める。そこで、富姫は青竜の御兜を土産に持たせることにした。だがしかしそれのせいで図書之助は秘蔵の兜を盗んだ謀反人だとして追われ、また彼は天守閣へ逃げ込んでくる。すると他の武士も追って城へ入ってくる。三度も天守閣へ入ってきてしまったことに対して図書之助は富姫に命をお取りくださいと頼むが姫は彼を生かし、かくまう。図書之助は獅子頭の中に隠れ、富姫も母衣に隠れた。追手がやってきて、図書之助は獅子母衣に隠れているとして獅子頭の力を封ずるために目を打つ。すると、富姫と図書之助は盲目になってしまう。富姫にとっては一生に一度の恋。盲目になりながらも図書之助は最後には姫を選び、二人は自害しようとする。しかし、そこに工人である近江之丞桃六がやってきて、獅子頭の目を彫ると2人は目が見えるようになる。そこで物語は幕を閉じる。もともと富姫とは、二代前の城主が鷹狩りに出かけた山奥の宮のなかで、世にも美しい女(まだ人間である富姫)を見つけ、妻にするため捕まえようとすると富姫は舌を噛んで亡くなってしまった。のちにその死体を片付けた神主が目撃したところによると、宮のなかに祀っていた木彫りの獅子頭が、目から涙を流し女の血を舐めていた。それから3年間、秋に大洪水がおこり女の祟りだと世間は恐れ、当のお殿様は、面白いと言って獅子頭を生け捕ってきて、天守閣の最上階に据えた。それ以来、姫路の天守閣は妖気うごめく魔所になってしまったという。泉鏡花の作品には妖怪がよくでてくる。そして、人間界に生きる主人公は何らかの形で妖怪とともに新たな生を生きることとなる。この物語は人間界を地上とし、魔界を第五層とすることで物理的に距離を設けるだけでなく、人間界を醜いもの、魔界を洗練されたものとして位置づけているのが面白い。

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著者プロフィール

泉鏡花(いずみ きょうか)
1873年11月4日 - 1939年9月7日)
石川県金沢市生まれの小説家。本名は「泉鏡太郎」。明治後期から昭和初期にかけて活躍。尾崎紅葉『二人比丘尼 色懺悔』を読んで文学を志し、上京し本人に入門、尾崎家で書生生活を始める。師弟の絆は終生切れることがなかった。
1893年、京都日出新聞に真土事件を素材とした処女作「冠弥左衛門」を連載。以降、『夜行巡査』、『外科室』、『照葉狂言』、『高野聖』、『婦系図』、『歌行燈』などの作品を残す。1939年に癌性肺腫瘍のため逝去、雑司が谷霊園に眠る。その後1973年に「泉鏡花文学賞」が制定され、1999年金沢に「泉鏡花記念館」が開館。

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