ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機 (岩波新書 新赤版 1894)

著者 :
  • 岩波書店 (2021年9月21日発売)
3.98
  • (48)
  • (70)
  • (40)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 739
感想 : 90
4

・ジョブとメンバーシップ(会員)どっちが良いとは言っていない。
 それぞれの成り立ちを、かかわる労働政策から事実ベースで解説してくれる。
 打算的なセールストークではないから信頼感あるし写実的な印象。
・日本の雇用システム、労働社会、労働法が絡み合っていて根深くて一筋縄ではいかないことがよくわかる。どう咀嚼するかという個人の価値観はゆだねらた恰好。
・一方で、それぞれの適応条件がわからず今後の方向性を見出すには至らず。
 何でもかんでも答えを求めるなということか。

以下備忘
■基礎
・ジョブ型は成果主義ではない
 ジョブ型はアッパー層しか評価しない、ジョブありきだから。そのジョブが遂行できているかどうかチェックするだけ。例外的に経営層に近いハイエンドはジョブディスクリプションが広範かつあいまいになるので、できている/できていないの二分法では足らず、事細かに評価されるようになる。メンバーシップは末端にいたるまで能力と意欲を評価される。だから長時間労働の温床になる。

・ジョブ型は解雇しやすいわけではない
 解雇が自由なのはアメリカだけ。そのほかは解雇規制あり。

・メンバーシップ型で誰が得をしていたのか
 若者が得している。女性が1番割くっている。寿退社の短期雇用しかも補助業務。出産後はパート。

・労働社会においてはどの部分もほかの部分と深くかかわりあい一つの雇用システムをなしているから部分部分の改善も常に全体像を意識する必要あり。

・職務と人間のくっつけかた、雇用契約の性質
 ジョブに人をくっつけるか、人にジョブをくっつけるか。
 ジョブに値札がつくか、ヒトに値札つけれんから客観的な基準が必要で勤続年数や年齢となり年功になる。
 ほかの職務への異動可能性があるから解雇の正当性が低くなり長期雇用・終身雇用となる。

・能力評価の「能力」は訳せない。

■入口
・欠員募集か新卒一括採用か
 長期的なメンバーシップを付与するか否かの判断だから本社の人事に権限がいく。
 ド素人を鍛える必要あることが善意のパワハラの温床。

・差別禁止の本当の意味=合理性がない差別は禁止すべき
 合理性とはなにか、当該ジョブに最も適合するスキルを有しているかどうか
 MSはそもそもの前提がない。
 ジョブ型推奨はいいけど、本当に自由な採用を手放す覚悟あるのか、
 ジョブとの適合を合理的に説明するということだぞ。

■教育
 ジョブ=企業外の公的教育訓練システム
 MS=企業内教育訓練システム(徒弟制・OJT)
   教育内容よりも偏差値
   技能を身に着けているかどうかよりも訓練に耐えられる素材かどうかの官能性
 
 ・かつては職業教育を重視していた
  50~60年代 経営サイドの声も踏まえて法整備や政策推進するも教育界の反発あり、大企業はしぶしぶ企業内の養成工制度や技術校を形成。その後60年代以降は高校進学率上昇も相まって現在のかたちに至る。

 ・日本の大学:18歳主義・卒業主義・親負担主義(年功的な生活給が当たり前という前提で公的負担ではなく私的負担ひいては本人負担のネオリベラリズムへ)
・上級国民には縁のない公的職業訓練だけが世界標準にちかい。
・雇用と教育は鶏と卵、一筋縄にはいかない
・大学はips細胞養成機関から抜け出せるか

・リカレント教育
 ジョブ=初めの訓練で得たスキルとジョブでずっと食べていく、技術革新でその前提くずれた、だからリカレント
 MS=OJTが最も重要な職業訓練、ジョブではあり得ない異動でまた素人からたたき上げられる。はずだったが、うまく機能せず、働かないおじさん問題。要は公的な教育を軽視してきたツケ。教育とは下賤な職業と切り離した人格陶治の神聖な場所という虚偽意識が窺われる。

■定年
・定年は年齢差別
 解雇自由のアメリカでは定年禁止
 欧州では年金前の定年は禁止
・定年=mandatory retirement age
・65歳雇用義務なので言葉の意味でいうと定年は65歳のはず。60歳は処遇の精算時期。
・まだまだ働ける人材を周辺的な仕事に追いやるのは社会的な人的資源の有効活用という点で問題あり。
・矛盾の70歳就業機会確保措置
 本来自立しているはずのフリーランスや自発的なボランティアまで会社が面倒見る制度になった。本当に持続可能か。

■解雇
・借家契約と雇用契約
 大家がマンションたてるからといえば退去させられる。
・リストラ(整理解雇)が最も正当なジョブと極悪非道になるMS
 ほかに仕事あるならそれをやらせろ
・ジョブは能力不足で解雇し放題かというと、それはあくまで試用期間。その仕事できますといって入ってきたのにできないじゃん。
・日本も実は中小では解雇だらけ。大企業とちがってほかにまわせる仕事ないということもあるが貴様解雇もいっぱい。しかも金銭解決の法整備もないので泣き寝入りが大多数。例外措置の権利濫用法理が常用されていることなど、例外のうえに例外を重ねていくしかない法体系になっていおり、地位請求にとどまるが、MSだと雇用維持するけどじゃあまかせる仕事ないからね。という帰結に至って泣き寝入り。

■賃金
・年齢に合わせて上昇する生活給としての年功賃金制度
 高度経済成長期に能力の上昇によるものだと説明原理を変えたことで泥沼へ。
 引き下げる理屈がたたないから成果主義が協調されるようになり中高年の賃金上昇ストップの動きとなるも、尚も下げるのは至難のわざ。
・根っこにあるのは中高年問題。本音でいうと中高年の賃金が貢献に見合わない。
 本当に40代以降も能力が上がり続けると思うか。
・教育費や住宅費を欧州とちがって全部賃金で賄わないといけないから生活給だった。
・ジョブ型賃金=職務評価によるジョブ型賃金
・男女平等と職務評価=女性職種の賃金安くないか?→同一労賃(同一価値同一賃金)
・年功/生活給=1922年呉海軍で労働者が左翼思想に走らぬように→戦時中に国の制度として普及→GHQで廃止されるはずだったが労働組合が生活給を作り上げる→労組内で若年層からも疑問の声→能力主義で決着
・ご都合主義の成果主義
 ジョブ型ハイエンドの明確な物差しとなる職務明らかでなく恣意的でモラルダウン。失敗に終わった成果主義を今度は物差しとしてのジョブを明確にして再チャレンジしようとしているのが最近のジョブ型ではないか。雇用システムとしてジョブ型を追求するわけではなく単に中高年の不当な高給を是正したいだけ。

・生活給の精髄としての家族手当→社会保障としての児童手当を阻害
 家族手当にせよ生活給にせよ、その出発点は妻子を扶養する男性労働者の生活保障

☆昔とちがって生活できるようになったでしょ。もう豊かになったでしょ。だから生活給捨てるではいかんのか。能力ゆえに正当という既得権意識との闘いならば、成果主義の対象範囲を絞って精緻にやる方向はどうか。若年は教育システムとのつながりもあるけど、少なくとも基幹職は。

■労働組合
 ジョブ型の組合=賃上げのみ。従業員代表は別組織。同一職業同一産業の利益代表組織、賃上げ
 MSの組合=両方。社員による社員のための組織。企業別なので、競争条件悪化して市場を失わないように足並みそろえるための春闘。カルテル。

・労働は商品ではない
 アメリカの反トラスト法(独占禁止法)が労働組合に適用され摘発されていた。
 それを踏まえて適用除外のために労働は商品ではない。
 会社のメンバーだから商品扱いするのはけしからんという話ではない。

・日本の法制度では会社はそのメンバーである株主の所有物であり、経営者は株主の利益を最大化する、労働者は会社外部の第三者で雇用契約によって労働を提供し報酬を得る債権債務関係に過ぎないが、一般的には社員がメンバーで株主が外部の第三者という意識になっているのは「企業民主化試案」イデオロギーの遺産か。
実定法と実体の隙間を埋めてきたのが判例。権利濫用法理という例外を常用してきた。

・欧州=自発的組織としての産別組合+公的な従業員代表組織
 日本=一体となっている。企業別組合のない中小は雇用関係のバランスとれていない。公的な従業員代表組織必要ではないか、けど既存の企業別組合どうなる?団体交渉の意味合い薄れる中誰も組合費払わなくなる。→組合機能と従業員代表機能に分離してはどうか。組合機能=組合費で組合員のために、外部連携もしながら団体交渉。従業員代表組織=会社費用で非正規含めて色々な折衝を。
※結局非正規の賃金はどっちで扱うんだ?

・70歳までの雇用努力義務で労使協定で対象者を限定できる。
 シニアは非組合員なのに。もう一度組合と非正規の関係を考えるべきではないか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年4月19日
読了日 : 2022年4月19日
本棚登録日 : 2022年4月19日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする