新型格差社会 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2021年4月13日発売)
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感想 : 31

 2021年4月発行。コロナ禍による影響を分かりやすく説明した。ポイントは2つ。
 1つ目、コロナ禍によって格差がはっきり見えるようになったこと。2つ目、過去の社会に戻ることはできないという予感が全ての国民に広く行き渡ったこと。
 格差というのは、家族格差、教育格差、仕事格差、地域格差、消費格差。いずれも戦後型家族のライフスタイルや価値観に当てはまらない、もしくはこぼれてしまったことによって差が広がるというもの。例えば戦後型家族の限界については、平成に入って共働きが増え、夫も家事をする必要がでると、愛情確認はコミュニケーション(会話?)に求めることになった。そのため、これまで言わなくても分かっていたな夫婦のあり方、家族のあり方に限界が来ている。
 また教育格差では、子供に十分な教育を受けさせたいと考える親ほど子供をたくさん産まなくなってきたということ。
 衝撃だったのは「パラサイト・シングル」限界。作者は「パラサイト・シングル」という言葉を作った人。しかしこのパラサイトシングルが可能だったのは、作者が言う「住居すごろく」ゲームが機能していた時代、つまり親世代が必ずマイホームを手に入れられていた時代だったからこそ可能。2000年代頃に成人し、非正規雇用で人生をスタートした人が今頃親になってる場合、持ち家を持っている可能性は低い。
 消費の変化・・・家族消費が減る一方、ブランド消費を代表とする個人消費が(も?)限界に達している。ここに「アイデンティティ(個性)消費」という新しい概念が登場する。直接「承認や評価」を得ようという試み。
 幸福とは自分の人生を他人から肯定されるところに生まれる、新しい幸福は自分の人生を肯定するものに直接お金を使うというあり方。他者から必要とされ、大切にされ、評価される自分を個人で作り出す、いわば人とのつながりを求める、美的感覚を磨く、他人を幸福にするといった行為、これらが幸福の実現。これからは消費の多様化を積極的に捉えることが可能になる。
《メモ》家族消費が減る・ブランド消費にも限界が来ているのは納得。新しい幸福の試みが多岐にわたっていて、実感できるものもあれば、まだ自分がわからないものもある。ただSNSなどで、幸せであることをアピールするなどは、この作者が言う「新しい幸福」に当てはまるのかもしれない。

《感想》
 コロナ以降の問題点を分かりやすくまとめてくれている。例えば、リモートワークが可能な人たちは新しい環境を求めて引っ越しができること、医療関係者は重労働になりながらも不安を抱えていることなど、ニュースやテレビで知っていたことも整理して書いてくれている。本書ではさらに、掘り下げて詳しいデータを示し、なぜコロナ以降の生活がこんなに変わってしまったのかという説明を加えてくれている。コロナで色々生活や価値観が変わったのはただのきっかけであって、それまで日本社会の中でブスブスとくすぶり続けていたものが少しだけ明らかになった結果なのかもしれない。そして、もし今の生活が苦しいとか、息が詰まるように感じるようなことがあれば、いきなり生活を変えることは無理でも、価値観の多様性を認めたり、社会の変化を受け入れたり、お互いに寛容な態度になることで少しは楽になるのかもしれない。
 作者は社会学者として第一人者らしい。これまで「パラサイト・シングル」や「婚活」などの言葉を生み出してきたそう。でも本書はすごく読みやすくて丁寧な言葉を使っている。取り扱ってるテーマは厳しいし重たいけれども、それを柔らかい言葉で、できるだけ読者が事実は事実として受け取れるように書いている感じがした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2023年5月25日
読了日 : 2023年5月25日
本棚登録日 : 2023年5月25日

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