口の立つやつが勝つってことでいいのか

著者 :
  • 青土社 (2024年2月14日発売)
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感想 : 17
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タイトルがいいと思って手に取った。
たしかに暴力や腕力で物事を決めようとするよりは言葉で、話し合いで解決を望むことは絶対的に正しい。だけど口が立つヤツの方が勝つ世界も、力で優劣をつけるのと同じくらい理不尽だと、小学生時代の喧嘩から気付いた著者がすごい。

言葉でしか伝わらないことと言葉にできないことの問題は、生きる上誰しも直面しうる。ビジネスの世界でなら言語化や理路整然であることが求められるのが当然なのかもしれないが、何でもハキハキとわかりやすく話せる人はどこか胡散臭いというのは同感。言葉にすることは確かに大事だけど、言葉にできないこともあるのは確かで、迷い、口ごもり、うまく話せない人は話せる人より劣るわけではないし、そういう人も尊重してほしいという思いに力づけられる。
言葉にできない世界があることをスープに喩えられているのがわかりやすく、またMさんという人の魅力が伝わってきてよかった。

他にも感謝という見返りがなくても親切が当たり前な世界もあること、お互いに迷惑をかけて当たり前な世界も成り立つことが実際に著者が移り住んだ宮古島での体験から綴られる。
また20歳で難病を患った著者が普通に生活できないことで、周りから「自分だったら死んだ方がまし」と言われる人生をそれでも生きる価値があると言う。これだけは失ったら生きていけないというものを失ったときに「死んだほうがまし」は安易に口に上るかもしれないが、前向きでもなく、大いに嘆きながらでも、その後の人生を生きる。その生きることに価値があると言える強さというか尊さというかは、それこそ言葉になかなかできないけど、いろいろ考えさせられた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2024年4月7日
読了日 : 2024年4月6日
本棚登録日 : 2024年3月10日

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