15歳でバンドデビューした3人の仲良しは、解散を経て35歳になった。既婚/未婚、子なし/子あり、それぞれ状況は異なるものの、何か満たされない思いを抱いてもがいている。夫の不倫を知りつつも嫉妬すら感じないちづる、有名人な母親の呪縛に苦しむ伊都子、一人娘を芸能人にするべく奔走する麻友美。
友達だからこその互いに対する嫉妬、つい張ってしまいがちな見栄、苦しい胸の内を話してしまいたい衝動、でも言えないという葛藤。一つ一つの感情の揺れが生々しく、手に取るようにわかる。あぁ、2000年代中盤の角田ワールドだと懐かしくなった。この後発表される、あの作品やこの作品に繋がるなと思わせる部分があちこちに散らばっている。それらの作品群は、精度を上げて濃く深く、完成度も高いものとなっていくが、個人的には過渡期の「何にもなれない」迷走がリアルな作風が好きだったりする。
連載終了後、直そうと思ったきり忘れられていたという本作。実は私も、その存在を忘れていた。2000年代中盤、角田さんがVERYに「銀の夜の船」(改題前)という連載をしていると知り「VERYに!どんな小説だろう。それはいずれ読みたい!」と思ったきり忘却の彼方だったのだ。長い時を経て陽の目を見ることができて本当によかったと思う。そして、手を入れることなく当時の空気感そのままに発表されて、これまたよかったと思う。確かに物足りない部分がなくはない…手を入れたら更に読みごたえのあるものになっただろうが、バージョンアップ前の角田作品の「隙」みたいなものが個人的にはツボなのだ。(勿論最新の作品も好きですよ!)
自分の連載作品を忘れてしまうなんてあるんかいなと思ったけど、確かにあの頃の角田さんはホントに仕事量がすごくて、私も追うのに必死だったもんな~。また、知られざる未発表作がぽろっと現れないかしら。「あの頃」の角田さんに会うのはなかなか楽しい体験だ。それは同時に、「あの頃」の自分を思い出すことでもあるのだ。
- 感想投稿日 : 2022年1月17日
- 読了日 : 2022年1月17日
- 本棚登録日 : 2022年1月5日
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