この世にたやすい仕事はない

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2015年10月1日発売)
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本棚登録 : 1980
感想 : 288
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「この世にたやすい仕事はない」、何ていいタイトルだろう!と思い、発売直後からずっと読みたいと思い続けていたがなかなか図書館で出会えず。思い切って購入したら既に5刷とは、驚きました。
これまでの津村さんのお仕事小説のように、リアルなお仕事あるあるが詰まった内容かと思ったら、予想の斜め上を行くものだった。「お仕事ファンタジー」との帯文句に納得の、ありそうななさそうなちょっと不思議な仕事がいっぱい。そして、主人公がその仕事を通じて体験するいくつかの不思議な出来事もまたありそうななさそうな…で、若干非現実的ではあるけども、そのオチにほっこりしたりぞわっとしたり切なくなったりとこれまた独特な読後感であった。
前職をオーバーワークで燃え尽きて辞めた主人公がまず就いた「みはりのしごと」は、少しおそるおそるな雰囲気での仕事ぶりだったが、「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」あたりからじわじわと仕事にのめり込み始める。おいおい、ハローワークの相談員の正門さんに「今のあなたには、仕事と愛憎関係に陥ることはおすすめしません」と言われてたんじゃなかったの、と半ばひやひやしながら読んでいたが…元来真面目なんだな彼女、仕事で達成感を得たいという気持ちはよくわかるし、アナウンスもおかきの袋の仕事も、個人的にそそられる内容ではあったし。
意外な展開であった「路地を訪ねるしごと」、津村さんの他の著作を少し彷彿とさせる内容でちょっと考えさせられた。だんだんに主人公の心持ちも変わってきてるなと気付かされる。そして最終話の「大きな森の小屋での簡単なしごと」、ユーモラスながらこういう結末になるとはお見事、であった。
淡々とした語り口が心地よく、それぞれの職場で出会う同僚たちのキャラクターも皆、飄々としていてよい。何気にフード描写もよかった。登場する食べ物、お店にことごとくそそられた。ファンタジーのような雰囲気であるからこそ、働くことの意味がよりはっきりと伝わってくるような気がする。そして、読み返すほど、巧妙な仕掛けに唸らされる。ああ、やっぱり買ってよかったな。どこか自分に重なるところもあり、主人公が色々と経験してきたことの意味が、すごく理解できるのだ。伊坂幸太郎氏の推薦文「津村版ガリバー旅行記」とは、言い得て妙。
読了直後に知ったが、BSプレミアムでドラマ化するんだね!この世界観をどこまで映像化できるのかドキドキだが、BSプレミアムなら期待しちゃおうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 津村記久子
感想投稿日 : 2017年2月18日
読了日 : 2017年2月18日
本棚登録日 : 2017年1月26日

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