ナナという猫の目線と飼い主である宮脇悟の目線の話が交互に展開され、目線の違いによる出来事の捉え方の違いにユーモアを感じながら、楽しく読み進めることができた。「旅猫リポート」というタイトルから、旅と猫にかかわる内容だろうなと推測しながら読み進めた。読みながら分かった旅の目的は、悟がナナの新たな飼い主を見つけるということ。悟がナナを飼えなくなった理由は、ラストに近づくにつれ明らかになっていく。ユーモアたっぷりの楽しいストーリーから、一気に切なく哀しい展開になる。胸にぐっとくるものがあり、涙が出た。全体的に、悟の過酷な家庭環境を、優しく包み込むような周りの人々や猫との繋がりと温かさが伝わってくる。ほほえましいやりとりに、そんな気心の知れた関係性をいいなとも思う。
初めの旅は、小学生の頃からの友達である幸助に会うための旅。回想シーンとして、悟が小学2年生、4年生、6年生の時の話が順次展開されていく。その中で、当時、悟の家で飼うことになるハチという猫との出会いと暮らし、両親との死別、友達である幸助との日々が丁寧に描かれていく。これが伏線になっていることは気づかないまま、悟と幸助の温かい友達関係を感じた。そんな中で、ナナ目線の言葉がユーモアたっぷりで面白い。
次の旅は、中学2年生の頃からの友達である吉峯に会うための旅。吉峯と悟とのやりとりは、分かり合った者同士の互いを思いやる言動が心地よい。吉峯の家で飼っているチャトランという子猫とナナのやりとりも面白い。ナナが先輩としてチャトランに狩りや喧嘩の仕方を伝授する。その様子を気にしながら見る悟と吉峯の視線がずれていて、そこも想像が広がる。
3カ所目の旅は、高校からの友人で夫婦となった杉と千佳子に会う旅。千佳子への思いを寄せていた杉と悟、2人の会話がぎこちなく、揺れ動く気持ちが伝わってくる。結婚してもなお、千佳子と悟の関係を心配する杉の不安さも伝わってくる。しかし、その心配は杞憂のものであることが明らかになっていく。この家庭には、モモという猫とトラマルという犬が飼われていて、ここでもナナとのやりとりが面白い。
「最後の旅」というタイトルで始まる北海道への旅。不穏なタイトルにどきっとしながら読み進めた。旅の目的は両親の墓参り。ナナと一緒に来たかったという悟の思いが明らかになり、さらに不安な気持ちが大きくなりながらも読み進めた。北海道の美しい景色が繊細に描かれていて、悟の旅の目的を知ることが不安になる。そして、そこに現われたのは、母の妹、悟の叔母である法子。両親が亡くなった後に、悟を引き取ってくれた人。そして明らかになる悟の状態。ラストに向かう中で、予想はしていたのだけれど、実際に明らかになると辛い。「僕の猫をもらってくれませんか」と親しい友達の暮らす町を訪ねる旅が、ぐっと切なさに変わっていく。今までの友達との楽しいやりとりやナナとそれぞれのペットとのやりとりも、この状況で一変する。どの友達にも、もらってもらえなかったことはよかったことなのだと、しっくりと沁みていく。そして、悟とナナが美しい風景を見ながら、愛車の銀色のワゴンで出かけた2人旅は、悟にもナナにも大切な記憶として残る、かけがえのないものとなったのだろうなと想像する。
登場人物のやりとりと風景描写の繊細さに、想像力を膨らませて読み進めることができた。最後は温かさとやるせなさが同居するものとなったが、やわらかい気持ちに満たされていた。「空飛ぶ広報室」以来の有川浩さんの作品を読了した。これから手にする有川浩さんの作品を読むのが楽しみになる作品となった。
- 感想投稿日 : 2023年7月29日
- 読了日 : 2023年7月29日
- 本棚登録日 : 2023年7月29日
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