月と散文

著者 :
  • KADOKAWA (2023年3月24日発売)
3.84
  • (88)
  • (117)
  • (88)
  • (19)
  • (4)
本棚登録 : 2284
感想 : 149
4

又吉さんの十年ぶりの随筆集(なぜか本文用紙からものすごくいい匂いがする)。「月と散文」という題名がいいですね。
『はじめに』にある、 “呼吸をしているだけで恥ずかしいのだ。それなら、せめて好きなことをやって自由に恥を掻きたい。自由に恥を掻くことは、阿呆になることとよく似ている。”との文章が、すごく好きだと思った。私も、何かをしようとするにつけ他者の目を気にしてしまい「恥ずかしい」という思い込みの自意識でがんじがらめになってしまうタイプの人種なので。

本文はどれを読んでもユニークでしみじみと良かった。たまに現実をはなれて、虚構の世界に筆がはしっていくような篇もあって楽しい。
また、幼少の頃の思い出が多く綴られているのがうれしかった。ナイーブな彼の対岸にいるような強さをもつ両親のもと大阪で暮らす、サッカーが大好きな少年だった又吉さん。
成長して大人になっても、事務的な手続きが苦手すぎるあまり、それを完了することで得られる権利は諦めて、空いた時間で公園のベンチに座り夕焼けを眺めて過ごすことにするような又吉さん。

阿呆だけど、どこかもの寂しくて、でもやっぱり阿呆。相方の綾部について述べる文章には、はっきりとそうは書かずとも愛が滲んでいる気がする。
最後まで読み終えて、私は又吉さんの小説も随筆もどちらも大好きだと、惚れ直すようにそう思った。これからも彼の書く唯一無二の文章を読み続けたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2023年5月8日
読了日 : 2023年4月28日
本棚登録日 : 2023年4月28日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする