永遠も半ばを過ぎて (文春文庫 な 35-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (1997年9月10日発売)
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映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』で引用されていた「君の体にも成仏してない言葉が詰まってるよ きっと」というセリフで興味を持った。

今まで写植を打ち続けることで抑え込まれていた波多野の中の言葉たちが、ナルムレストを飲んだことがトリガーとなって溢れて出てくる。馬鹿みたいなチラシの文言を無私で打ち込んでいたのに、知らないうちに、突っ込むようになっていて、気付いたらビート文学みたいな支離滅裂な文章を打っていたあのシーンの怒涛さは読んでて興奮した。トリガーが薬物なのは少し不満、ナチュラルハイが良かった。

私は「押し殺して押し殺してそれでも出てくるのが個性」って主義だから、主義に合う小説。今は、波多野が写植を打ってきた数十年の期間に私もいて、色んな知識や言葉の洪水で自分を洗い流す期間なんだろうな。洪水に自分自身が流されてると思いきや、自分の中の要らない部分だけが流されて洗練されていた。その残った個性の部分が自分の声を欲しがるようになって、「永遠も半ばを過ぎて」ができた。例えフィクションでも信じたい未来。

相川のプレゼンの部分は読んでていつも楽しい。宇井にニセモノって見破られたのは可哀想だったけど。台本を読むんじゃなくて、その役の人となりをとことん考えてから、そいつを降臨させる、ってのは処世術として役立てたい。

キキに影響を受けてガムラン音楽を聴き始めた。

好きだった文
・中国人で太った人を見たことがありますか?
・”ここにあるものでおまえのものはおまえだけさ”。そうかもしれないが、おれは自分のものであるおれと、ずいぶん折り合いが悪かった。
・「これは何ていう音楽なんだ」「ガムランよ。ジャワの」「この音楽はこんなに大きな音で聞くものなのかね」「質が変わるのよ。あるレベルを超えると。何だってそうよ。あんた......」
・「ひとつ手に入れると、ひとつ失うのよ。何でも手に入れる男は、鈍感なだけ。失ったことは忘れてしまう。哀しみの感情がないのよ、わかる?」
・「僕の直観だがね。人間の心っていうのは、こういう、イチジクというか、キンチャクというかそういう形をしてる(中略)このキンチャクの上部の、ひだになって締まってる部分をね、ゆるめてやるんだよ。そこから誰かが入ってきてくれる」
・「知らないふりをして若い人の話を聞くのは、老人の義務だよ」
・「あなたの中には、その文字の言霊が残ってるのよ。五千万字分」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年4月7日
読了日 : 2022年4月5日
本棚登録日 : 2022年4月5日

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