目次
・義血侠血
・夜行巡査
・外科室
・高野聖
・眉かくしの霊
泉鏡花の代表的な作品が収録されていますが、どれも初読みです。
泉鏡花といえば耽美的な作品(「高野聖」「眉かくしの霊」が有名ですが、どちらかというと私は思いがけない純情がほとばしる「義血侠血」や「外科室」が好みでした。
永井荷風が好きそう。
「外科室」は読んだことがなくてもどんな作品か、ということは知っていました。
手術の麻酔で朦朧としたまま秘密を口走ることを恐れて、麻酔を拒否する貴族の女性。
この設定で想像していたのは、医師や看護師の白衣や、手術台の上に灯されている無影灯、血の気の失せた青白い患者の顔など、白く冷たい光景。
そして、秘密の漏洩を怖れる貴族のプライド。
ところが、熱いんですよ、彼女の心情が。
夫がいようと子どもがいようと止めることのできない思いにずっと蓋をしてきたのでしょう。
そして最後まで蓋をすることを決めていたのでしょう。
そのきっかけが、そんな些細なところにあったなんて。
ストーリーを知っていても、読まないかぎりは作品を知ったことにはならない。
あらすじで知る名作なんて、くそくらえ、だ。
そして、この本を読むまで全く知らなかった「義血侠血」が良かった。とても。
父の死で学校を諦めざるを得なかった、法学士志望の乗合馬車の御者の青年。
美貌と気っ風のよさで人気の女芸人(お笑いではない)。
ひょんなことから知り合ったふたり。
彼女は彼に夢を託す。
平凡な幸せという夢を。
そのため、彼の学生生活を援助し、彼の母親の面倒を見る。
ところがそんな生活もあと一年、という時に事件が起こる。
そうなつもりはまったくなかったのに、坂道を転がり落ちるように罪を重ねてしまう彼女。
とはいえ証拠のないことで、しらを切りとおす。
そんな時、彼女が支援してきた彼が、彼女の目の前に現れる。
ああ、何でこんなことになってしまったんだろう。
自分のできる範囲で、精一杯生きてきたのに。
彼と彼女は出逢わないほうが良かったのだろうか。
いや、不幸ではないが幸せでもない人生より、一瞬でも幸せだった方が良かったのだろう。
彼女は彼に感謝しながら本当のことを告げたのではないだろうか。
川上音二郎が「滝の白糸」として舞台化。
- 感想投稿日 : 2023年4月28日
- 読了日 : 2023年4月28日
- 本棚登録日 : 2023年4月28日
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