以前読んだ『世界の果てのこどもたち』が、満州から引き揚げてきた子どもたちの話であったのに対して、これは沖永良部島(奄美諸島)で日本から切り離されて、アメリカ統治下で暮らす子どもたちの話。
不勉強ではずかしいのですが、沖永良部島が沖縄ではなく、奄美の島であることをこの本で知りました。
作中で登場人物たちがびっくりするのですが、私も思っていたのは、アメリカの統治下なのだから、復興中の日本よりよほどいい暮らしができていたのではないかということ。
軍の払い下げ品などをもらい、アメリカの食べ物を食べ、音楽を聴き、明るくポップな生活。
しかし実際には、食べる物と言えば蘇鉄のでんぷんと芋。
毎日の水汲みは女の子たちの重要な仕事。
布だけは払い下げの服から切り出すことは可能だが、糸がないので、洋服から慎重に抜き取って再利用。
学校はあっても教科書はないので、密航して本土から持って来るか知り合いがいれば本土から密輸する。
それを手で書き写したものを、進級するたびに下の学年の子に渡す。(紙も貴重なので)
島の仕事では稼げないので、野心のある子は沖縄に出稼ぎに行くか、本土に密航する。
それで命を落とす人もまた、多数。
最初から最後まで方言で書かれているので、最初はひどく読みにくかった。
主人公のカミは17歳なので、7年前に終わった戦争のことをまだ覚えている。
昔から変わらない生活を大切にしているが、日本に復帰できればもっと幸せな暮らしができるかもしれない、とも思っている。
幼なじみのユキ(男子)は、大学進学をするために、島の日本復帰を強く望んでいる。
多くの子どもたちは中学を卒業すると働いて家族の生活を支えている。
カミは、高校卒業後の自分の進路を決めかねていた。
奄美諸島の復帰が決まったが、沖永良部島はアメリカ統治下に残されることになった。
本土の人には奄美も沖縄も大きな違いはない。
けれど、取り残されるか救い上げられるかの瀬戸際で、島の人たちは奄美全島の復帰を要求する。
沖縄は米軍基地があるからしょうがない。
だけど奄美は日本だ、と。
カミは、しょうがないという言葉で戦争を受け入れ父や兄を喪うことになり、今またしょうがないという言葉で、何か大切なものを切り捨てようとしているのではないかと危惧する。
”本当のことを学んで、教えられる先生になりたい。それでも自分の考えを絶対だって押しつけるんじゃなくて、子どもたちと一緒に考えられるような先生になりたい。
こどもたちが、もう二度と、だれにも騙されることのないように。そして、だれも騙すことのないように。”
再び奄美に戻ってくるために、カミが出航するところで小説は終わる。
本土に行ってショックを受けることも多々あると思うけれども、きっと彼女は誠実な大人として、一人の教師として、奄美に帰ってくることを予感して巻を置いた。
- 感想投稿日 : 2022年6月8日
- 読了日 : 2022年6月8日
- 本棚登録日 : 2022年6月8日
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