恋文 (新潮文庫 れ 1-4)

著者 :
  • 新潮社 (1987年8月1日発売)
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感想 : 130
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目次
・恋文
・紅き唇
・十三年目の子守歌
・ピエロ
・私の叔父さん

どの作品も、しっかり者だったり意地っ張りだったり見栄っ張りだったりして言えない言葉を、その虚勢を、空元気を描いていて、素直に感情を表現することの苦手な私の心にぐっさぐさ刺さるのだった。

表題作では、夫が余命僅かの昔の彼女を看取るため家を出る。
その理由を知った年上でしっかり者の妻は、夫の従兄として彼女を見舞い、いつしか心を許せる友達になる。
リアリティがなさそうな設定だけど、自分に置き換えると取りすがって泣くことも、取り乱して怒り狂うこともできそうにないから、きっとなんてことないような顔をして送り出す気がする。
全然他人事に思えない。

ただ、子どもがいるでしょう?
大人の勝手な都合で子どもに悲しい思いをさせてはいけない。

父に反発しながら焦がれる男たちの気持を描いた『十三年目の子守歌』も、妻の希望をまるごと受け入れて裏方に徹しきった夫の姿を描いた『ピエロ』も良かったけれど、『紅き唇』『私の叔父さん』が良かった。
ロマンチストか、私。

『私の叔父さん』は、6歳違いで兄弟のように育った叔父と姪の秘めた想いを、姪の結婚とその2年後の事故死によって凍結していた想いを、姪の娘が20年ぶりに突き付ける話。
カメラマンとして活躍している構治と姪である夕季子とその夫。
メインは構治と夕季子の想いのやり取りなのだけど、最後の最後に夕季子夫婦の愛のかたちも見えてとても良かった。
が、夕季子の忘れ形見である夕美子が、自分の我を通すために母の秘めた恋心を関係者全員の前で暴露するのはちょっと許せない。

一番気に入ったのは『紅き唇』。
結婚して3ヶ月で亡くなってしまった妻。
結婚生活が短すぎて、別れが急すぎて、悲しみも感じることができなかった和広。
今はどういうわけか、妻が亡くなってから転がり込んできた妻の母と暮らしている。
家族縁の薄い二人の、奇妙な同居生活。

戦前戦後を働きに働いた母は、甲斐性のない夫にも二人の子どもにも先立たれ、一人残った娘とはうまくいかず、天涯孤独のようなもの。
酔った勢いで、若かりし頃、友達の恋を応援した話などすることもあるが、苦労ばかりの人生でったと言える。

和広にはいま、付き合っている女性がいるが、最初は応援してくれた義母が、ある時から彼女を貶しはじめ、交際は停滞している。
義母はこの二人の恋を応援する。
口紅の一本も買ってやれ、と。
全てがわかった時、母の想いに涙する。
もうほんと、このやせ我慢と小さすぎる幸せに、涙止まらんかったよ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月24日
読了日 : 2022年11月24日
本棚登録日 : 2022年11月24日

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