伊藤整の「小説の方法」で「蔵の中」が紹介されていたので読んでみた。
「蔵の中」は出世作と言われているらしいが、今風に言うと自虐っぽく、一人漫談のような語り口で、進んでいくが、それに似合わず、クライマックスではこんな場所でこんなに幻想的なシーンが描けるんかと前衛的な印象さえもたせる。
私はそれよりも「思い川」が気に入った。
「浮雲」と併読していたので最初登場人物や筋を整理するのに苦労したが、途中からはどんどん引き込まれた。筋のうねりやギャップで惹きつけるのではなく、美しいものを美しく見せるという王道で持っていかれる。
中でも私はこの物語の淀みが素晴らしく美しいと思う。普通はすじが停滞すると退屈になるが、この物語の淀みは濁りを含まず、むしろ底まで透き通らせて見せる。ゆったりと海へ向かう川の流れのように二人の思いはよりそうて流れてゆく。
てなところか。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年7月19日
- 読了日 : 2023年7月18日
- 本棚登録日 : 2023年7月18日
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