修道師と死 (東欧の想像力 10)

  • 松籟社 (2013年7月19日発売)
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感想 : 5
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舞台はオスマン帝国時代のボスニア、修道師(ダーウィシュ)として充足していたアフメド・ヌルディンの元に、弟が逮捕されたという知らせが届く。逮捕理由は不明だが、彼の釈放を訴えれば神の正義に逆らう事に、見捨てても人の正義=神の教えに背く事に。とてつもないジレンマに苦しむアフメドは更なる世俗の柵(しがらみ)に囚われてゆく……。
本書はアフメドの心の内の記録という体裁の一人称小説だ。それまで敬虔なムスリムとして聖なる信仰の世界に生きてきた主人公が、いきなり俗界の混沌として醜悪なモノに巻き込まれ、戦慄き、否定しようと試み、しかし結局は彼と彼の魂が変容していく様に圧倒される。その描写はややもすれば冗長に感じがちだが、人間が未知の感情・感覚に襲われ、遂には受容する様子を見事に捉えている。傑作である。
本書のような執筆された時期や言葉も、ストーリーの舞台設定も現代(2022年)の我々から隔たれている作品はいくつもある。それらから人間の普遍的な何かを見出し、触れた時の感動がたまらなく快いから、文学ーー殊に長篇小説はやめられない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 松籟社
感想投稿日 : 2022年7月15日
読了日 : 2022年7月14日
本棚登録日 : 2021年10月31日

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