大人は泣かないと思っていた (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2021年4月20日発売)
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九州の田舎町に住む、生真面目な男と呑んだくれの父、出て行った母、親友、職場仲間、ご近所さんなど、日常の中で関わる人々たちの独白によって綴られた7つの連作短編集。

ブクログアプリの話題文庫ランキングで、本作品の表題名が目にとまり、そのまま手に取った。

『大人は泣かないと思っていた』
なるほど。言われてみれば確かになと。

各章ごとに主人公が変わり、年代も幅広く性別も違うそれぞれの生き様が語られていく。

兎角、主人公である翼という青年の発する人情味が心地よい。

総じて、何か大きなドラマがある作品ではない。
ただただ、各登場人物たちの思い想いが徒然に描かれている。地味とまでは言わないが、派手さは一切ない。

何よりそれが、この作品の見どころだ。

各登場人物の中に、少しずつ自分がいた。
幼き頃からおじさんとなった私自身の、あらゆる感情のパーツが点在していて、独白ごとに胸に沁みる言葉があった。

私も思っていた。大人は泣かないと。

子どもの頃の私は大人然り、男は泣いてはいけないのだと思い込んで育った。

そして時は経て、おじさんになった今の私はどうだ。
ことあるごとに泣く虫のようになった。

そうだ。大人だって泣くのだ。
何かおかしいだろうか。大人だって泣くのだよ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年9月18日
読了日 : 2021年9月18日
本棚登録日 : 2021年9月18日

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