九州の田舎町に住む、生真面目な男と呑んだくれの父、出て行った母、親友、職場仲間、ご近所さんなど、日常の中で関わる人々たちの独白によって綴られた7つの連作短編集。
ブクログアプリの話題文庫ランキングで、本作品の表題名が目にとまり、そのまま手に取った。
『大人は泣かないと思っていた』
なるほど。言われてみれば確かになと。
各章ごとに主人公が変わり、年代も幅広く性別も違うそれぞれの生き様が語られていく。
兎角、主人公である翼という青年の発する人情味が心地よい。
総じて、何か大きなドラマがある作品ではない。
ただただ、各登場人物たちの思い想いが徒然に描かれている。地味とまでは言わないが、派手さは一切ない。
何よりそれが、この作品の見どころだ。
各登場人物の中に、少しずつ自分がいた。
幼き頃からおじさんとなった私自身の、あらゆる感情のパーツが点在していて、独白ごとに胸に沁みる言葉があった。
私も思っていた。大人は泣かないと。
子どもの頃の私は大人然り、男は泣いてはいけないのだと思い込んで育った。
そして時は経て、おじさんになった今の私はどうだ。
ことあるごとに泣く虫のようになった。
そうだ。大人だって泣くのだ。
何かおかしいだろうか。大人だって泣くのだよ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2021年9月18日
- 読了日 : 2021年9月18日
- 本棚登録日 : 2021年9月18日
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