祈り (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2020年6月9日発売)
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本棚登録 : 1054
感想 : 92
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アパレルメーカーの営業として勤める楓太と、変わった能力を持つ春輝。それぞれ不器用な2人の生き様が徐々に交差していく、ファンタジーでハートウォーミングなヒューマンドラマ。

久しぶりの伊岡瞬。
改めて伊岡瞬の人間描写の巧みさを堪能。
いつもながら脳内で各登場人物の姿見が自然と形成され、登場人物それぞれの性格や心理描写や風景描写もリアルに伝わってくる。安心して、信頼して作品に没頭出来る。これぞ伊岡瞬品質だ。

紹介文にあった『人生が交錯するとき、心震える奇跡が起きる』との一節。ふむ。これはミステリではないんだと弁え読みに耽った。

東京に馴染めないだらしなく他人任せな楓太と、不器用で優しい春輝の2人称視点で進んでいくのだが、終始危なっかしい。第三者による人間の欲深さ、身勝手な悪意に二人がどんどんと巻き込まれていくさまが何とももどかしいのだ。

【特別】を持った人間は称賛される一方で、非難をかうこともある。人はあらゆる感情を働かせて誤解したり、期待したり、自己都合で解釈し折り合いをつけて生きている。そして時に善意を、時に悪意を持った人との出会いにより人生の天気模様は変わっていく。

バイプレイヤーである元裏社会の経営者である義理堅い鶴巻と、金融営業の傍ら福祉活動をしている謎深い千穂が物語の舵を取り進行していくのだが、主役よりもキャラを立たせているあたりが秀逸。伊岡瞬の魅力がまたここでも伺えた。

春輝が最後に切に願った祈りは叶ったのか否か、読者の解釈に委ねられる終い方は私的に好みであったが人によって評価が分かれる作品であろう。


そして改めて痛感したこと。
私はやはり伊岡瞬のミステリが好きだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年4月17日
読了日 : 2022年4月17日
本棚登録日 : 2022年4月17日

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