時の渚 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2004年4月7日発売)
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感想 : 90
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「笹本稜平」の長篇ミステリ小説『時の渚』を読みました。
「笹本稜平」の作品は約3年半振り… 久しぶりですね。

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第18回(2001年)サントリーミステリー大賞

探偵の「茜沢」は末期癌に冒された老人から、昔生き別れになった息子を探し出すよう依頼される。
やがて明らかになる「血」の因縁と悲劇
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2001年(平成13年)に刊行された著者の2作目… 「笹本稜平」名義でのデビュー作となった作品、、、

元警視庁捜査一課の刑事で、探偵の「茜沢圭」を主人公にした人情ミステリです。


元刑事で、今はしがない私立探偵である「茜沢圭」は、末期癌に冒された老人「松浦武三」から、35年前に生き別れになった息子を捜し出すよう依頼される… 当時、極道だった「松浦」はお産で妻を失い、逆上して医者を叩きのめした、、、

生まれたばかりの赤ん坊を抱えて街を彷徨っていた彼は、要町で居酒屋をやっているという女性と出会う… 子どもが欲しいのに子宝に恵まれない女と、逮捕されたら子どもを預けるあてもない極道、「松浦」は彼女に子どもを託して刑務所に入った。

出所した「松浦」は、ヤクザの世界から足を洗って事業に成功するが、死を目前にして天涯孤独の身… 無理は承知だが、生き別れになった息子を捜して財産を譲りたいというのだ、、、

老人が生まれたばかりの息子を預けたという女性の手掛かりは、当時30歳くらいで要町の金龍という居酒屋をやっていたということだけ… 雲を掴むような話だが、「茜沢」は着実に捜査を進め、彼女が「原田幸恵」――「ユキちゃん」と呼ばれていた人物であることを突き止める。

35年という分厚い時間の壁を通して、「茜沢」は「ユキちゃん」の影を追い続けていく… 少ない情報の中から息子の消息を辿る中で、自分の妻子を奪った轢き逃げ事件との関連を見出し、元上司の「真田警部」や元シャブ中で通信機器のエキスパート「西尾」等の協力を得ながら少しずつ真相に近づいていく……。


「茜沢」が、私立探偵として依頼された人探しの柱と、殺人事件の犯人が逃走中に妻子を撥ねたという「茜沢」自身の過去の仇討ちという柱… この二つの流れが意外な形で融合し、パズルのピースがピタリとはまったかと思わせておいてから、違うピースが出てきて、またパズルを組みなおす という二重三重のどんでん返しが準備されており、最後まで飽きずに愉しく読めました、、、

登場人物が魅力的だったし、家族の絆や愛情について描いた秀逸なヒューマンドラマでもあったし、本格ミステリとしても愉しめる… という面白くて、贅沢な一冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: <読む>ミステリ(国内)
感想投稿日 : 2023年9月5日
読了日 : 2021年6月14日
本棚登録日 : 2022年3月11日

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