三浦英之『白い土地 ルポ 福島「帰宅困難区域」とその周辺』集英社文庫。
第2回ジャーナリズムXアワード(Y賞)受賞、第8回城山三郎賞最終候補作品のノンフィクション。
著者の三浦英之という新聞記者はただ者ではない。被災者に寄り添いながら、被災地の真っ只中に身を投じ、政府や東京電力など巨大権力に牙を剝いて見せる行動力には感服する。『南三陸日記』が悲しみのノンフィクションであるならば、本作は怒りのノンフィクションである。
一歩も進まぬ福島第一原発の廃炉作業。何が『アンダーコントロール』だ。原発事故から10年以上が経過したが、燃料デブリは耳かき1杯も取り出せず、核爆発だか水素爆発で破壊された建屋が見た目綺麗に整えられ、汚染水だか処理水が海に捨てられただけではないか。安全な処理水だと言うなら、どうして海水で薄めて、1キロ先までトンネルを掘って放出するのか理解出来ない。
挙げ句『復興五輪』という名の『汚職五輪』だ。良いタイミングで新型コロナウイルス感染禍が起きて延期になり、全く盛り上がらぬ五輪だった。始まってみれば、『復興五輪』の『ふ』の字も無かったのには驚いた。
政府の判断により国が除染を進める還れる「帰宅困難区域」と『白地』と呼ばれる還れない「帰宅困難区域」。双葉町や南相馬市の方に行くと、余りにも明確に区別されていることに驚く。『白地』の方は東日本大震災から時間が止まったかのような廃墟が建ち並び、その異様な光景に驚かされる。
福島第一原発事故が多くの人びとの平穏な暮らしを根底から覆した。相馬野馬追いに全てを賭けた人びとの生活を奪い、名門双葉高校野球部を廃部にした。浪江町で地域に密着した新聞舗は事故後も、たった1人で新聞を配達した。三浦英之はそんな新聞舗を手伝いながら、福島第一原発事故で喘ぐ人びとの生活を取材する。
そんな中、末期癌の宣告を受けた浪江町の町長から最後のメッセージを記録して欲しいと口述筆記を託される。2011年3月11日に発生した東日本大震災による全交流電源喪失と東京電力の人災により福島第一原発は水素爆発を起こし、放射能物質がプルームとなって大熊町、双葉町、浪江町を襲う。しかし、浪江町にだけには政府からも東京電力からも放射能物資の拡散情報が全く提供されなかったのだ。浪江町の町長は放射能物資が大量に降り注いだ地区に住民を避難させたことを悔いている。
当時の政府の大本営発表は酷いものだった。枝野の「原発に直ちに危機は無い。」という大嘘を何度耳にしたことか。自国民にはSPEEDIの情報を提供せず、何故か米軍だけが全員、原発の80キロ圏内から退避したという事実から、アメリカにだけにはSPEEDIの情報を提供していたことが覗える。
2019年の台風19号で田村市や二本松市、川内村、飯舘村で放射能汚染土の入ったフレコンバッグが流され、中身が流出していたことなど知らなかった。自分はこの時、中国に出張していて、飛行機が欠航になり、足止めを食らい、何とか翌日に帰国し、大混乱の新幹線で帰宅したら、洪水で街中がとんでもないことになっていた。
『復興五輪』と言う被災地をバカにしたような『東京汚職五輪』。聖火ランナーが走ったのは大金を注ぎ込んだ東北電力の元原発建設予定地だったと言うのだから空いた口が塞がらない。
本体価格760円
★★★★★
- 感想投稿日 : 2023年10月31日
- 読了日 : 2023年10月31日
- 本棚登録日 : 2023年10月30日
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