ホロコ-スト: ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書 1943)

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  • 中央公論新社 (2008年4月25日発売)
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必ずしも、はじめからユダヤ人の絶滅をナチ党が考えていたわけではない。しかし、占領下のフランスが、マダガスカルへの移送を当時のドイツに打診してきたように、ヨーロッパからの追放という形での対応があり、おそらくヨーロッパでのユダヤ人への抑圧はあったのだろう。ベロックの『ユダヤ人』を読んだあとだと、なまなましく感じる。
 また、処分という名目で殺害されたのが、必ずしもユダヤ人だけではなく、優生学的見地から自国内の障害者や弱視者なども含み、ドイツが戦線を東に広げるに従って戦争捕虜を労働力に使い使えなくなると殺害していた。殺害されたユダヤ人600万人(推計)の上に独ソ戦の捕虜や、運動家、ボルシェビキなどが上積みされる。
 ユダヤ人に対しては人種絶滅というお題目が掲げられ徹底的であったという特別な事情があるが、そもそも、命や人に対して情が薄い。一次大戦の戦後処理でドイツが経済的に追い込まれていたということはあるのだろうが、戦線が拡大し併合していく国のさきざきで、まず労働力としてユダヤ人たちが追い込まれていく。領土がふえれば、そこに住む人もふえるわけで、東へ向かってひろがっていく。ヨーロッパのイメージからドイツやその近辺のイメージが強いが、ポーランドや特にハンガリー系のユダヤ人の死亡者数も多い。現地の人々にユダヤ人を撲殺することが強要されたりと 占領下だったとしてもやらされた方だってたまったものでないのではないか。現地の人にしてみたら、隣近所の可能性だってあるのだから。 
 この本が書かれた時点ででてくる数字や史料によるのだろうが、官吏の作った記録帳などが、相当程度残っているようだ。膨大な紙の断片的記録があるのかもしれない。この本では、アウシュヴィッツだけではないホロコーストの全体像のあらましがわかる。
 歴史としてどう考えるかについても、その経緯について一章をさいてふれられている。いまなお、ヒトラーが最終決定権を握っていたのかは決着がつかず、多くの忖度があったかもしれないことは記憶にとどめておくべきだ。また、散発的な蜂起があったり、脱走に成功したわずかな人々が、助けを求める事実はあったが、実際に手がついたのはほとんど戦後といっていい。なぜ、こんなにたくさんの人が唯諾諾と殺されてしまったのか、また殺したのかはわからないことなど多い。
 
 
 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年12月29日
読了日 : 2023年12月29日
本棚登録日 : 2023年12月29日

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