生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1994年10月26日発売)
3.43
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本棚登録 : 1815
感想 : 130

もしもあなたが、まったく見知らぬ人から、あからさまに大切にしているものを壊してくれと頼まれたら?
ためらうでしょう?

いや、フツウ、そうですよね?

この本、明らかに本好きに訴えるくせに、本好きなら躊躇う必定の造りをしてる。それが最高にすてき。

この本、ものすごくかわってるんです。
よっ、製本屋泣かせ!
って言いたくなる、16ページごとの袋とじ構成なんですよ。
読めるのは16-17, 32-33, 48-49ページ・・と、決まって16ページごとに閉じられている。
なのにページの書き終わりとつながったページの書き出しがもちろん、ばっちりあっている。
そのうえストーリーになっているんだから。
解答編だけ袋とじして見えないようにする、じゃない。袋とじを開くとまったく別の物語になるの。

袋とじ?はあはあ・・そういうのではなく、こほん、そこにもう、作者のおもてなし精神がさあどうだ!とばかりにつまってるから御用心。

まずは王道、消える短編。
袋とじは別に、章立てでなされてるというわけでもなくて、なんとなんと!
(かなり合いの手うるさいですね・・笑)
とじられていない部分がきっちりつながってよめるのですよ。独立した味わいある短編に。
短編は単に消えるのでもなく、別立てでもなく、それどころか推理小説にたまに使われる、とあるトリックも隠されていて、叙述部分もトリッキー。
ふたつの話はまったく別の話として成立して、しかも短編のエンディングは、
本編のXX部分を利用するため、あ、ホントに!という技も成立しちゃうんですねこれが。

他にも、表現をつまむことで人物の関係性の濃度がまるで変わったり、
主要人物を完全に袋とじすることで短編の登場人物を絞り込んだり、
ある人の行動が袋とじを挟むことで別の人の行動になっていて、展開にまったく別の位相が持ち込まれたり、
同じ単語を前からの文脈で、まったく別のものにしてしまったり・・


これがもし、閉じられてないとこが独立した物語内物語だったりしたらあたしもここまで興奮しません。
でもでもでも!


ジェットコースターどころじゃない。毎回別の場所に連れて行かれるカラフルな冒険。飽きないなあ。
百万人が言うとおもうけどあたしも言う。これ、これこそが泡坂妻夫のトリックそのもの!

いやすごかった。
色んな意味で楽しめました。
本当のこと言うと、読了の人向けにもうひとつ感想文書きたいくらいです。
全部ネタバレして、ね、あそこ!ですよねあたしもー。お、あ、ナルホド、そうも読めますかあ、ふむふむ。なんて。



もーーー!
言えない・言いたい部分が多すぎる。

ということでここはぜひ、ご一読を。読み終わってこんなに、終わったことが寂しかった本は久々です。
ちなみにこの、短編消失があまりに素晴らしくて、この小説の本編のテーマが透視なんだけど、
絶対消失にしてほしかったのに!って、ワガママにも思ったり。

いや~ご馳走様でした、本当に堪能しました。
極上の、これはまさに本当の、御褒美読書。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 最高のエンターテインメント。まず読め!
感想投稿日 : 2014年3月20日
読了日 : 2014年3月20日
本棚登録日 : 2014年3月20日

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