昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

著者 :
  • 講談社 (2011年7月7日発売)
4.11
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本棚登録 : 764
感想 : 37

物語は、昭和の頃。刑務所で聴いた落語に憧れて出所後にその落語家に弟子入り志願するところから始まります。
最初はイヤイヤでしたが、おバカな主人公の圧に根負けして許可。
ここからストーリーは流転を重ねます。

ぜんぜん乗り気ではなかった八雲師でしたが、なぜ落語を教えようとしないのか。落語と共に心中しようとしているのか。その秘密が明かされます。これが物語の前半部。

後半では、多くの軋轢を経て助六の名を継承し落語家として真打を任されるまでに成長した与太郎の姿が描かれます。
与太郎が立派に認められるまでの過程でいかに落語を存続させるか、というテーマが柱となっています。

心に影があり、落語を自分の代で終わらせようとする八雲。それとは対照的に落語に情熱を燃やす与太郎。その与太郎の姿に助六の面影を見る八雲。そして八雲と助六の間にあった事件とその顛末を、創作落語を作ろうとする作家が嗅ぎ回る。

僕は当初、八雲は与太郎を上辺の親切心だけで実は飼い殺しにして何も教えず与太郎をダメにしようと薄情なことを考えているのではないかと心配でした。
しかし、与太郎の元アニキ分が現れた際に、与太郎の親代わりであることをハッキリと告げて、与太郎の寄席に招待します。予定の時間をオーバーしているのに、熱心に落語をする与太郎の姿を温かい眼差しで見つめる八雲の目にはたしかに親心を感じ、彼が元々持っていた人情を垣間見た瞬間でした。
これが昭和の江戸っ子の人情ってやつなのでしょうか。

僕は、アニメ版の方から入りました。漫画版を読むとアニメ版のキャストの声がセリフを読むだけで聞こえて来るようでした。それだけ恵まれた作品なのでしょうね。

ところで、本作に触発されて、僕自身も創作落語を一席作ってみました。実体験(ネットストーカー被害)×IT(ソーシャルエンジニアリング)というテーマで手前味噌ですが、そこそこ書けていると自負しています。
よかったら読んでください!
【ネットに生息するらしい女形について】創作落語を一席やってみた。
https://note.com/nemuisan/n/ne85ee0391b15

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: マンガ
感想投稿日 : 2020年10月4日
読了日 : 2020年10月3日
本棚登録日 : 2020年10月3日

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コメント 7件

nejidonさんのコメント
2020/10/04

夜型さん、おはようございます(^^♪
落語好きなので素通りはできませんね。
私もアニメ版から入ったクチです。
絵も上手いし話も面白い。人気のわけが分かりますね。
あらま、実体験でしたか!うわぁ、気持ち悪い・・
そういう人、いるんですねぇ。すぐバレるのに。
それを笑える作品にしてしまうなんて、さすがです。
色々妄想を膨らませながら楽しく読みました。
モーニング・ルーティンに「落語を聴く」を加えようかしら・(笑)

夜型さんのコメント
2020/10/04

nejidonさん、こんにちは。
nejidonさんも落語がお好きなんですか!
文学YouTuberのムーさんも落語がお好きでした。
このハナシも落語好きな方に読んでもらって面白いって言ってもらったんです。
あまり創作には向いてないと思ってましたが、嬉しくて公開しました。

このハナシのカマは、気持ち悪かったです。笑。
しかも、彼の絵描き中まで彼のことを好いてる男子もいて、奇想天外でした。笑。
カマに恋してた男も恋愛経験ナシで童貞で非モテで…そのくせ女好きだったから、カマだと分かってからショック受けてましたねぇ。

ちなみにカマを演じてた野郎はこれまで三人遭遇したけれど、すぐ見切りました。よく見てると分かるもんなのですけどね。

ハナシのテイストに与太郎を参考にしました。
チャキチャキの明るい話しながらも助六さんほど雄々しくもないところが良かったので。
声優の演技が素晴らしくて、耳に残るし、落語の面白さも熱気もよくよく伝わってきました。

nejidonさんのコメント
2020/10/04

夜型さん。
はい、それはもう子どもの頃から好きでしたね。
絵本でも「落語絵本」というのを何冊も紹介しています。
古典では「らくだ」艶っぽいのでは「明け烏」人情モノで「芝浜」が好きです。
枝雀さんの「千両みかん」も何度聞いても大笑いです。
夜型さんにとっては決して楽しい思い出ではないはずなのに、こうして読むと笑えますね。
「すぐ見切りました」って、何だか特技みたい・(笑)
二度と遭遇されませんように。
出来れば違うタイプの変なひとに出会って、それでまた面白い落語にしてくれますように!(^^)!

夜型さんのコメント
2020/10/12

nejidonさん
ムーさんから感想をいただきました。
「おもしろかった」と仰っしゃりましたが、「落語風のお話ですね」とストレートなでした。
僕のお話も落語心中も、彼の美学に反するようです。
これらは彼が重視するルーツと系譜からは大きく逸れて、傍流に属するからだそうです。笑。
コアなファンからしたら、こうしたやや厳しい評価になるのかもしれません。
甘言よりはずっとありがたいのですが。

僕がはじめて聞いた落語噺は、目黒のさんまでしたね。学校の年配の先生が校内放送を利用する形で全クラスに向けて聴かせてくれました。
いいお話だと思いましたし、茶ぶりたくなりましたね。

僕は、違和感とか直観の類は鋭いようですね。笑。
それをひとに分かるように理路整然と証明するのが難しいのですが。

nejidonさんのコメント
2020/10/12

夜型さん。
コメントをいただいて考えこんでしまいました。
一回目に読んだときは素直に面白いと思いました。
二回目は「何かが足りない」と思ったのですがそれが何なのか説明できず、一回目の感想を書いたのです。
代替え案も提示できないのに、何か足りないなんて言えませんよ。
ただ結果として甘言になったのならお詫びしないといけませんね。ちょっと悲しいですが。
もう少し私に素養があれば参考意見を言えるのにと残念な思いです。
引き続き読み返してみますね。でも答えが出ないかもしれません。。
「目黒のさんま」も面白いですね。絵本版もあって、この季節はよく読みます。
子ども向けにはオチが分かりやすものを選びます。
意外にも中学生は「時そば」が好きです。あとは「そばせい」とか。
落語の世は奥深いものです。ムーさんはそれをご存じなのでしょうね。

夜型さんのコメント
2020/10/12

nejidonさん
僕は、落語心中を参考にしてお話を作りました。
主眼はうっぷんを晴らすため、棚卸しのためでした。
でも、負の感情を喋ってはなんの意味もなかったので、笑い話しにしようと考えました。
『落語心中』は見様見真似で、うまい感じにデフォルメされて、実物よりもキャッチーなんですよね。
しかし、本物の落語はフラがあるし、臨場感もあるし、熱狂があります。
そうした差異は、本流か俗流か。玄人か素人か。といった違いが如実に出るのですね。
棲み分けだとか、役割が違うという言い方もできるかもしれませんが、本流を知るものにはダメなのですね。

ただ、ネットでよくある悪党を笑い話しにするという目的は達成されたので(確定的な証拠を掴むために使ったIT要素を解説した有料部分を買ってくれた方も複数名います。)、一応満足しました。

別の作品でたとえれば、『知の欺瞞』のようなものです。『知の欺瞞』の役割は、当時の人文思想者たちの欺瞞をあぶり出し、笑いものにするという世紀の一発芸だったからです。

夜型さんのコメント
2020/10/12

ただ、こうして試作を作って貴重なフィードバックを得られたので、次に繋げることが出来るという自信があります。
成長するには、チャレンジあるのみですね。

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