地中の星

著者 :
  • 新潮社 (2021年8月26日発売)
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現在の東京メトロの前身である東京地下鉄道は大正時代に創業された。本作は東洋初の地下鉄建設に関し「日本地下鉄の父」と呼ばれた早川徳次や建設に関わった人びとの人間ドラマである。作品の表現手法はNHKのヒット番組「プロジェクトX」そのもの。タイトルも中島みゆきの番組主題歌「地上の星」をもじったものと思われる。
早川は、早稲田大学出で南満州鉄道で修行後、中央官庁である鉄道院に入り、その後は栃木の左野鉄道や大阪の高野登山鉄道を再建した。彼には大望があり、欧州を視察、帰国後は東京でロンドンにあるような地下鉄建設に乗り出す。計画当初は「地盤が軟弱」という意見、庶民の恐怖心もあり、誰からも共感が得られなかったが、大隈重信や渋沢栄一の協力、銀行からの資金援助を得て、なんとか株式会社を設立する。
だが、建設にあたっては関東大震災、崩落事故、資金不足、大正天皇の崩御など様々な苦難が待ち受けていた。
それを乗り越える過程で描かれているのは、土留め、杭打ち、履工、掘削、コンクリート施工、電気設備といった現場に携わるリーダーたちの活躍。前人未到の難工事に挑む彼らの葛藤、衝突、矜持を伝えることに力点が置かれている。
また、工事の過程で「スキップホイスト」、「エンドレスバケット」、「ベルトコンベア」、「ATS」など新しい技術、百貨店の地下フロア直通の地下駅設置といった新しいアイデアの創出があり、情熱と知恵で前進する人間のたくましさも伝わってきた。
終盤には、早川の地下鉄工事の技術を後発者の有利を生かして横取りするかのような五島慶太の新線建設、営団という形での国による乗っ取りもあった。最終で五島は早川を尊敬していたことを明らかにし、現場監督、技術者、無数の人足たちを「地中の星」と称し、そのほとんどが、いま、肉眼で見えないと結んでいる。まさに、感動的な「プロジェクトX」のエンディングそのものであり、頭の中に中島みゆきの歌声が響き渡った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2024年4月17日
読了日 : 2024年4月15日
本棚登録日 : 2024年4月15日

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