森絵都さんは10代の頃に好きだった作家さんだ。
中高生を主人公にした小説のイメージだったから、こういう作品もあるんだと驚いた。
登場人物全員が特殊な生い立ち、境遇なので、誰かに特別感情移入して読めるタイプの小説ではなかった。
けれど読みにくさはなく、本当に小説家ではない甲坂礼司が書いているのではないかと思わせられた。
若くして全てを諦めている礼司が『ある種の回復力』を持ったタフな結子と過ごすうちに少しずつ変わっていったのだなあと思うと、感慨深い。
40章で、
『本来ならばここでこの小説は結ばれるはずだった。
しかし、現実は小説よりもタフだった。』
とあり、松ちゃんが17日にやろうとしている事が明らかになる。礼司はそれを止めに行くと言う。
終わるはずだった小説を続けてまでそれを書いたら、普通は17日の顛末も書こうとするのではないかな、と私は思った。私が素人だからかもしれないけど。でも、礼司だって才能があるにしたって小説の素人のはずだし。
17日に自分の身に何か起こるかもしれないから、そこで終わらせて教授に原稿を送っておいた、とも考えられるが、17日の朝に震災が起こるのでその前に教授に原稿を送っておいたことにならないと辻褄が合わない作者都合の気もしてしまった。
けれど、先が見えないなか現愛進行形で書き進めてきたという体の小説の終わり方としては、とてもきれいで好きだった。やっぱり甲坂礼司には才能があるっていうことかな。
礼司と結子が震災でどうなっていたとしても、この小説はバッドエンドではない。そこがよかった。
冒頭の教授からの手紙が誰宛てなのか、大輔が登場した時点で大輔だろうと思った。が、途中でもしかしたら違うのかも?と思わせてくる。
全て読み終わって冒頭の手紙をもう一度読むと、大輔だとわかる記述がきちんとある。すごい。
そして大輔に関してもバッドエンドではなかったとわかるのがよい。
おそらく海外でフィールドワークということは、夢が叶って物書きになったのだろか。それとも別の道をみつけたのかもしれないが、いずれにせよよかった。
- 感想投稿日 : 2023年1月16日
- 読了日 : 2023年1月16日
- 本棚登録日 : 2023年1月12日
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