君の膵臓をたべたい

著者 :
  • 双葉社 (2015年6月17日発売)
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「クラスメイトであった山内桜良の葬儀……」冒頭一文目から結末が告げられるなんて…。

これは自分の殻に閉じ籠っていた「僕」と、明るく人間味豊かな桜良との切なく、輝きに満ちた歩みの物語だ。
膵臓の病で余命わずかな桜良。一日一日を輝かせていこうと生きている。彼女が見る桜は他の誰よりも綺麗に見えるとの描写がある。

自分自身に笑い話にしかならない体験がある。小学生の時分、カブトムシを採りに行ってマムシに咬まれた。当時の自分は「あぁ死ぬんだな」と病院に向かう車中で思った。(もっともマムシの毒で死ぬことは稀らしい)不思議と怖さがなく、心が澄み渡っていった。電柱が、街灯が、町の風景が輝いて見えた。「あぁこんなに世界って美しかったんだな。」と飽くことなく車窓から眺めていた。後にも先にも、こんな体験は一度きりだった。大人になった今でも覚えている。
想像するに桜良には、命の有限さを知るがゆえに、見るもの全てがまばゆかったに違いない。無論、哀しみと表裏一体ではあるが。

そんな咲良に出会った「僕」は化学変化をうけたように変わっていく。それは閉ざしていた心の殻を破るほどのものであった。彼の心の奥底では人との関わりを求める気持ちがあり、それが咲良によって解き放たれたと見ることもできる。
そうした鍵となる人との出会いが人生の中に、誰でもあるのではないか。
本書にあるように「自分で選択」していったから、その結果出会えたのだと思う。「僕」が桜良に出会えたように。

自分という人間は今まで出会った人々との関わりからできている。
時に人と関わることは煩わしいものだけれど、それらは一生続いていく。だけど人を認めたい、人を愛したい。「僕」はそんな人間的な感情の数々に咲良との出会いから気づいていったのだと思う。

恋愛なんて遠い昔の私は、どうしても親目線で見てしまう。桜良の思いを知る度に、切なくて胸が締め付けられるようであったし、命がかかっているだけに重い気持ちにもなった。

でも、不思議と桜良が「僕」の生き方が清々しい読後感を与えてくれた。誰かとの出会いは自分が選択してきた積み重ねの結果であり、それが自身の大きな成長を産み出すことがある。今の自分自身がこうなってるのもそうなのかもと思うと、それはそれで良かったのかもと思える。
忘れられない作品の一つとなった。


読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月24日
読了日 : 2022年11月24日
本棚登録日 : 2022年10月21日

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