野良犬の値段

著者 :
  • 幻冬舎 (2020年12月24日発売)
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本棚登録 : 4051
感想 : 488
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百田直樹さんのミステリー小説。
百田さんにとって初めてのミステリー作品とのこと。
今まで「永遠の0」「海賊と呼ばれた男」等の史実に基づいた作品も最高だったが、「モンスター」等の物語系もやはり最高だった。
先に書いてしまえば今回も最高に面白い作品だった。

物語は6人のホームレスを誘拐し、ネットで犯行を公開しながらの劇場型誘拐事件。
結局はホームレス達の自作自演の誘拐事件なのだが、身代金の請求先は大手新聞会社とテレビ局。
ここがこの物語のめちゃくちゃ面白いプロット。
報道に携わる会社のその根本的な正義を試している様でもあった。
人の生の価値をどう捉えるのか?
身近な人ならともかくアカの他人の、それもホームレスなら?
考えさせられる。

勝手に名指しされ請求される新聞社とテレビ局のうける窮屈さ。
報道する側(新聞社、テレビ報道)の人命の重さという偽善に対して、正当性を積み重ねてどうにか払いたくないという本音に擦り合わせていく感じが読み取れる。
人命の重さ、その本音と建前と偽善、会社の顔と体、報道という仕事の義務感、会社員としての使命、そしてそれらのメリットとデメリット等が渦巻きだす。物凄い深い混乱が見てとれた。

物語自体も秀逸、後半の犯人と企業、警察の心理戦もお見事。
常に緊張感を漂わせ、読む手が止まる事がなかった。

読後に自分だったらアカの他人の命の為に金を出すのか?
理想と現実の狭間で現実が勝ってしまうだろう。
そして悩む割には確実にやはり出さないだろう。
そういう自分の中に眠る人間のおぞましさにも気づかされてしまった。

そして自分も含め人間ってなんだろう?
社会という集団生活を形成しているのに、自分中心で自分勝手でわがままで傲慢な考え方をしてしまう。
それが悪いとも思わないし当然といえば当然なのだが、それで良いとも思えない、複雑な心境を味わっている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月6日
読了日 : 2024年3月6日
本棚登録日 : 2024年2月26日

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