それでも、日本人は「戦争」を選んだ

著者 :
  • 朝日出版社 (2009年7月29日発売)
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感想 : 394
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ずっと近代の戦争の総覧を読んでみたいと思っていたので、まずタイトルに惹かれました。本書は東大の先生が中高生を相手に講義をするという形をとっているので(といっても子供たちは歴研ですが)、とっつきやすくて読みやすいです。
そもそも当時の日本人は戦争=悪とは考えていません。「相手が悪いことをしたのだから武力行使をするのは当然」という感覚を、本書の序章で9.11後のアメリカとの比較で解説されています。戦争うんぬんは良いか悪いかではなく、”種類”で考えられた。
日清戦争や日露戦争は、外に目を向ければなんといっても不平等条約の改正が大きい。国内はもちろんいろいろな思想がありましたが、条約改正となると民より国益重視で意見が一致していたようです。日露戦争をはじめるのは元老(幕末維新の内乱を経験していた人たち)は反対してたのはちょっと意外でした。情勢を冷静に分析してたし「どれほど苦しくとも不正はするまい」の精神が、国を動かす日本人にまだあったんでしょう。
近代戦は植民地問題がありますが、日本のは「安全保障」の面が大きい。ヨーロッパは資源の面(好奇心も?)がそもそもなのでその辺が違うことがわかりました。この問題が第一次世界大戦でクローズアップされる。この大戦は日本は比較的大きく関わっていなかったので、いま一つ知らないことが多かったのですが、これがヴェルサイユ条約も含めて、その後の日本のあり方を決定づけたことも分かりました。特に戦争に参加するときも講和会議のときもアメリカとイギリスには”不信感”を抱かざるを得ない(お互いに)状況になった。
国際連盟からの脱退には、国連の規約を知らなかったのか読み違えたのか、自分は思わずあっ!と心のなかで叫んでしまいました。変な言い方ですがこのあたりはスリリングです。しかしこの規約第16条、これでは世界大戦が起きてしまします。
国民に目を向けてみると、やはり昭和4年の世界恐慌が大きい。大打撃を受けたのは、就業者の4割を超える農業従事者でした。ちなみに農業から重工業などへ産業構造が変化するのも、戦争(日清戦争)がきっかけでした。
それまでの戦争の大義名分の「ズレ」を一気になくしたのが軍部です。特に陸軍は普通に「政治勢力」として認められていたばかりか、実に国民に”おいしい”訴えを巧みに展開していました。特に農村部に積極的に働きかけていましたが、これは農民は兵士になるからです。
そして2.26事件や治安維持法などの暴力や圧力。政治家も(みんなではなかったですが)死ぬのはこわいですから(もう幕末の志士はいません)だまってしまう。
太平洋戦争ではアメリカとの力の差は感じていなかったのか、なぜ戦争を始めたのかの疑問はいつも出てきます。本書で精神論の怖さがよくわかります。日清戦争は相手が”弱くて気が進まない”戦争だったけど、アメリカは強いから”弱い者いじめではなく明るい戦争”なのだ、今までの戦争がこれで「完遂」できる、と。日本人はアメリカのほうが兵力や資源が勝っていると、多くの人は知っていたようです……。
軍人だったという水野廣徳(ひろのり)の「日本は戦争をする資格がない」という言葉を忘れないでいたいものです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 戦争
感想投稿日 : 2022年7月24日
読了日 : 2022年7月24日
本棚登録日 : 2022年7月7日

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