冬の鷹 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2012年9月1日発売)
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本棚登録 : 566
感想 : 72
4

あなたは、「『解体新書』を翻訳したのは誰か」と聞かれたら何と答えますか?

小学六年生社会科のテストなら
『杉田玄白』
と答えていれば丸になるかな。
でも、実際の翻訳作業はほぼ全て
『前野良沢』
が手掛けたことまでは学習しません。

本書はその前野良沢と杉田玄白を中心とした歴史小説です。オランダ語の習得に全身全霊を捧げようと志す前野良沢は、ほとんど暗号解読のような状態で翻訳を成し遂げます。しかし自分の名を著作に刻むことはよしとしませんでした。一方で用意周到に出版の準備を進めた杉田玄白は、後に医家として大成し医学界の頂点を極めます。
吉村昭さんの小説は、対照的な二人を軸とするも、平賀源内や高山彦九郎といった関わりのあった同時代の人物にも多くの筆をさいていて、江戸時代末期の社会情勢を俯瞰して見つめています。それでも著書の視点は温かく、埋もれがちな前野良沢へとより多く向けられています。"どちらが正しい"と二者択一するのではなく、二人の対照的な生き方が、現代に生きる我々にも多くの示唆を与えてくれていると思います。

…それにしても、"杉田玄白はほとんどオランダ語はできなかった"っていう事実は、知っておくべきかもしれないなぁ…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月23日
読了日 : 2023年10月23日
本棚登録日 : 2023年10月23日

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コメント 2件

kuma0504さんのコメント
2023/10/24

杉田玄白タイプ、前野良沢タイプの2つがあるとしたら、私は杉田玄白タイプだったというのが、1番の発見でした。

白いヤギと黒いヤギさんのコメント
2023/10/24

コメントありがとうございます。
いつの時代にもこの二人のようなタイプはいるのでしょう。会社組織の行うプロジェクトでは、このようなタイプの人がうまくはまると成功するような感じがしますね。

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