トヨタ物語 (強さとは「自分で考え、動く現場」を育てることだ)

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  • 日経BP (2018年1月18日発売)
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意外の連続だった。
ふつう車メーカーの創業の物語といえば、まず造りたい理想のクルマ像というのがあって、それを実現していく話かと思ったら、創業者のジャスト・イン・タイムという生産方式のアイデアをいかに具現化していくかという物語だった。
しかもいまでは全能のように語られる生産方式も、確かにトヨタを強くはしたが、どん底から救い、かつその生産方式の礎にもなったのは、朝鮮戦争と不良トラックに激しくクレームをつけたアメリカ軍だったという事実。
そもそも現場での創意工夫や改善も、裏にあったのは怯えにも似た強烈な危機感だった。

いまではなかなかその危機感を共有することは難しいが、アメリカが本格的に日本で車を売りはじめたら、トヨタはつぶれるという恐れは、是が非でもトヨタ独自の生産方式を会社全体に根付かせなくてはならないという悲壮な使命感につながった。
しかしこの生産方式も、いかにも勤勉な日本人らしい発想から生まれたものだと誤解していたが、その実はむしろ欧米人の方が親和性が高いのではないかと感じるほどドライで、現状維持をよしとする日本社会の風土への挑戦であり、真面目な優等生タイプより要領のいい横着なタイプの方が発想しやすいという。

この本を読んでトヨタ生産方式なるものがわかった気になるのが、最大の錯覚だろう。
これでよしといった終わりのない不断の試行錯誤の繰り返しで、パターン化された公式は存在せず、解決策も現場と指導員の数だけ無数に存在する。
本書にもある通り、社内で幹部から直接研修を受けた従業員が、実際に工場でラインを見るまでは、その真の革命性を理解できなかったというのだから、本書を読んだだけでわかった気になるのがいかに愚かなことかわかるではないか。
その著者も、いわゆるトヨタ生産方式の亜流を見て「これは違う」などと書いていて落胆した。

カイゼンの生みの親である大野耐一のエピソードが強烈だ。
幹部でさえ大野が近づいてくるだけで足がすくみ膝の震えが止まらなかったという。
極めつけはしのぶ会での一件で、当時の現場での大野の姿がビデオ上映されただけで、それまで談笑していた会場の雰囲気が一変し凍りついたというのだから相当なものだ。
それほど厳しい大野を追い返すほどの反発が当時には存在していたが、現在はどうか?
「トヨタがつぶれる」という切迫した危機感が裏返しに使命感を強くしたが、その危機感は現在も共有されているか?
反発と危機感、実は欠かせない要素だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年1月21日
読了日 : 2018年10月7日
本棚登録日 : 2020年1月21日

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