借りたもの。
感情論を抜きにして、戦争を“経済活動”として紐解いてゆく。
歴史の勉強でそうした視点をもって語られないためか、経済と政治の問題を分離して考えがちだ。
それらが密接に絡んでいるにも関わらず。これは日本だけだろうか?
先の太平洋戦争では、日本の敗戦にGDP以上の戦費がかかったこと(急激な戦線の拡大、それに投入する軍備・物資の不足のため)、当時の株価から日本人(一般人)が戦況に対して楽観的な姿勢を持っていた(日清・日露戦争を勝利したことも要因だろう)ことが、証言以外の具体的な数字として裏付けが取れると思った。
有事の際にかかる予算の内訳についても具体的な数字を出しており、興味深い。
戦争によって、巨額のマネーが動くことも。日本が戦後、準ハイパーインフレを起こしたが、朝鮮戦争による特需によって持ち直したという事実に目を背けてはならないだろう。何というラック…?
この本でもう一つ語られているのが「地政学」。これ自体、経済との関係が密接で、シーパワーとランドパワーについて言及される。
EUをアメリカ経済圏に対抗するため巨大経済圏と見る視点以外から紐解く。地政学的な理由から「ドイツを独り勝ちさせない」という周辺諸国の思惑…… エマニュエル・トッド 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』( https://booklog.jp/item/1/4166610244 )もこれに通じるのだろう。
茂木誠『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』( https://booklog.jp/item/1/4813284620 )でも指摘されていた。
歴史を振り返れば、シーパワーを制したものが世界の覇権を握っていた。シーパワーは防衛よりも海を使って貿易を行い、富を増やすことに熱心になるため。
一方のランドパワーは隣国と地続きであるため、領土保全を最優先に考えざるを得ない。
このランドパワーとシーパワーの国家間の駆け引きが、日本の安全保障にも影響を与える。
アメリカがずっと中国を敵視するとは限らず、妥協する姿勢を見せた場合、ともすれば中国に委ねられてしまう場合もある(そしたら言論の自由も無くなったり、利益を吸い上げられてしまうんだろうな……)。
戦争の経済と言っても、武器弾薬の製造だけがそれではない。
後方支援――交通、水道、電気通信網などインフラの整備――が戦況にも関わる。
そのひとつの形として、IT技術の重要性を言及。
無人戦闘機然り、情報戦の面からも言わずもがな。3Dプリンタの発達も後方支援に影響を与えることも指摘。
日本学術会議だったか…2017年に防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」に大学が協力しないようにと提言した。
しかし、世界的にみても民間と軍事の技術の垣根は限りなく低くなっており、双方で一から独自開発したら単純にコストは2倍。その間に連携している方が時間と金のコストもかからずはるかに発展するだろう。
この本を読んで、「日本は戦争が“できない”」としみじみ思う。
これは憲法があるからではなく、「経済成長をしていないから軍備が足りない」ためだ。
だからこそ「IT技術を活かし低予算でどこまで有事に対応できるか?」という視点があるが、どこまで補えるだろうか……orz
余談。憲法9条があるからといて非戦になるわけではない。
戦争を“仕掛けてくる”国があれば相手は仕掛けてくるだけだ。
それを“防御(迎撃)”するだけの軍備はあるだろうか?これもまた“お金”が絡む。
それが発生する予兆の指標としても、経済活動(と技術の発展)を視野に入れるべきだと思う。
戦争とは感情論で勃発するのではない。
戦争をするだけの経済力があったればこそ、外交を自身の有利に運ぶための最終手段であることを意識させる。
flier紹介。( https://www.flierinc.com/summary/875 )
- 感想投稿日 : 2020年11月4日
- 読了日 : 2020年11月4日
- 本棚登録日 : 2020年10月11日
みんなの感想をみる