風立ちぬ

著者 :
  • 2012年9月13日発売
3.45
  • (33)
  • (58)
  • (99)
  • (23)
  • (2)
本棚登録 : 729
感想 : 96
5

「風立ちぬいざ生きめやも」
その意味は、
「風が吹いた、いまこそ生きねばならない」
この話は実際に結核にあい病死をした彼女をモデルにしたと調べたら出てきました。

主人公は亡くなった節子を思いこう言いました。
「わたしは死者たちを待っている。そして彼等を立ち去るがままにさせてあるが、彼等が噂とは似つかず、非常に確信的で、死んでいる事にもすぐ慣れ、すこぶる快活であるらしいのに驚いている位だ。ただ、お前ーーお前だけは帰って来た。」

ここまで、死者を思い儚い文章を私は見たことがありません。言葉の勢いはこの思いを伝えようとする重みがあります。
リルケのレクイエムでの引用では、亡くなった節子になぞられてこう言いました。
「帰っておっしゃるな。そうしてもしお前に我慢できた、死者たちの間に死んでおいで。死者にもたんと仕事はある。けれども私に助力をしないでくれ、お前の気を散らさない程度で、」
その意味は、作中の主人公の思いで伝わりました。
「細やかな小さい明かりが私たちを照らし生かしている」
「おれはこれまで1度たりとも自分がこうして孤独に生きているのをお前のためなんぞ思ったことがない。」
自分のために戻ってきて欲しくない。節子がいる気配がするのは気の所為だ。風の木々の音であると思いたいその思いがあまりにも強く苦しくなりました。
風が吹いたのは彼女がそばに居ると言うことならば私は彼女が死者の世界に戻れるように強く生きなければならない。
最後まで彼女を思い、彼女の後ろ姿に後押しをする姿は雪のように儚く切ないです

「花咲き匂う人生」という様にこの作品には沢山の花が作中に出てきます。たしかに病人と花は切っても切れない存在であるからです。そこに目をつけた作者は天才だと思いました。
花を提示する前に花言葉に重なる出来事が多いのです。最初にでてきた花は、ライラックとエニシダ。
これは、この2人の関係を指してるとも言えます
ライラック⇒思い出、初恋の匂い
エニシダ⇒謙遜、卑下

17号室の重症患者が亡くなったあと看護師は野菊とコスモスを摘みに行きました。その花言葉は、
野菊⇒守護、忘れられない
コスモス⇒移り変わらぬ気持ち、そして恋の思い出、別れ
ここの思い出と別れの意味は主人公達のこれからを予期して書いたとも取れます。
また、神経衰弱の奇妙な患者が栗の下で自殺をはかりました。栗の花言葉は、満足という意味があります。
主人公が節子との思い出を小説として書いてるときにはブナの木が書かれ、それは独立と勇気という意味もあるのです。
特に作中によく出てくるのはもみの木で、それは永遠という意味です。
とても切ないです……
また、この日記は全てを悟った内容から察するにその日に起こった期日で日記をかいてないと思われます。
過去を振り返るような口調で書いてることからこの思いもこの苦しみも全ての出来事を自然と受け入れたためやっと振り返ることが出来たと言わんばかりです。
サナトリウムから見える谷を死の影の谷と思っていた主人公が最後に

「幸福の谷そう今はそう呼んでもいいような気がした」
その言葉は死を受け入れた、そんな並大抵の覚悟ではなかったはずです。
作者と主人公の思いに感動しました

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月6日
読了日 : 2023年6月4日
本棚登録日 : 2023年5月28日

みんなの感想をみる

コメント 2件

ナカジマさんのコメント
2023/06/06

ものすごく精緻な考察ですね…
散りばめられたら花言葉に込められた想いをよくぞここまで丁寧に集めましたね。
死の影が色濃くありながらも、対照的に生命の象徴である草花に物語を暗示させる…なんとも繊細で美しい構造ですね。

りんさんのコメント
2023/06/06

コメントありがとうございます!!
まとめるの大変でした笑
生命の象徴の草花……。ほんとこの作品はすごいです

ツイートする