総評として、テーマが現代的かつ倫理をテーマとした話が多かった。そして最終的に「道徳的に正しい」決着をする話が多い。そういう意味においてはSFを読まない人でも安心して読み進められると思う。しかし、それ故に射程が短く思いもよらない場所に連れて行ってくれるパワーが不足していると思った。
以下各話を100点満点でレビューする。
「商人と錬金術師の門」(60点)
仕掛けが多い割りに話が単調。
「息吹」(70点)
設定は面白いけどストーリーがない。
「予期される未来」(30点)
そうだね、としか言い様がない……。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(65点)
やたらページが多いが、オチが微妙。倫理についても踏み込みが甘い。
「デイシー式全自動ナニー」(65点)
ドラえもんとか読んできた身としてはそもそも機械が人間を育てることに否定的な立場ではないので、コンセプトを面白いと思えない。
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」(95点)
これはめちゃくちゃ面白い! 人間個人の人生が全て記録されたらどうなる? というアイデアを基に二つの物語が交互に語られ、テーマとしっかり結びついたオチに繋がる。
「大いなる沈黙」(85点)
オウムの一人称で語られる味のある掌編。着眼点が良い。
「オムファロス」(70点)
既定路線でしかない。異世界を導入することによって異化されるものがない。
「不安は自由のめまい」(90点)
もし自分が別の選択を取ったら……というIFはありがちなアイデアだが、パラレルワールドとコンタクトできる装置を売る仕事や、その装置の中毒になった人をカウンセリングする仕事など、上乗せされるアイデアが面白い。紋切り型の「過去を振り返るな今を生きろ」にもなっていないし、深みのある物語になっている。
- 感想投稿日 : 2023年8月11日
- 読了日 : 2023年8月11日
- 本棚登録日 : 2023年8月11日
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