命のビザを繋いだ男 小辻節三とユダヤ難民

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  • NHK出版 (2013年4月23日発売)
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小辻節三の波乱万丈の人生をここまで調べつくしてまとめられた作者の熱い思いが伝わり息つくまもなく読み通した
 ヘブライ文化・ユダヤ教の学者であった小辻は 日本での理解者は少なかった というより関心を持つ人はほとんどいなかった 太平洋戦争の開戦直前 6000人ものユダヤの難民をドイツナチスの追っ手から救い 安全な国に送り出すために 船の手配 そのためのビザの延長 などなど すでに日本で反ユダヤの活動をひそかに始めているナチス憲兵に悟られぬよう成し遂げた 今なら大変なニュースになるところだが当然おおやけにはできない 
 晩年は より共感してくれる人の多いアメリカで活動していた 後年 自叙伝をまとめたが これも自国語じゃなく英語で書かれている 戦争直前満州で その後日本で いかに苦しい思いをしたかがわかる 平和な時代になりユダヤの人たちとの交流復活・改宗・イスラエルへの埋葬などなどアメリカやイスラエルでは大きなニュースになった でも 日本では小さくしか取り上げられなかったという ホロコーストという暗い記憶につながるユダヤのニュースは日本ではあまり歓迎されないという こういう感覚は残念ながら自分にもある おさない頃に読んだアンネの 想像を絶する痛ましい出来事は思い出すたびに 今も胃が裏返るように痛み見つめ続けることが出来ない こういう経緯から常にユダヤ人とともにあった小辻についても日本での記録は少ない
 最晩年は日本に戻り家族とともにすごしたが この時「百年以内に(日本でも)誰か、自分をわかってくれる人が現れるだろう・・・」と二人の娘さんに語っている
 この本によってようやくその時が来たのだと思う 関係者が殆ど亡くなられて行く中で この本をまとめ上げた山田純大氏の功績は非常に大きい
 1973年(昭和48年)アブラハム小辻永眠 享年74歳
最愛の夫 父親のお墓はお参りのしやすいところに・・・と思うのが普通なのに 遺言により当時直行便もなかったエルサレムへの埋葬を受け入れたご遺族のお気持ちの大きさに頭が下がる 
 日本人にとってこんなにも誇らしい偉業を成し遂げた小辻節三の本はアンネの日記 杉原千畝の本とならび読み継がれていくと思う

この本では他に満州のことなど 生きた歴史にふれることが出来た 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伝記
感想投稿日 : 2016年3月12日
読了日 : 2016年3月11日
本棚登録日 : 2016年3月11日

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