命のビザを繋いだ男 小辻節三とユダヤ難民

著者 :
  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140815991

作品紹介・あらすじ

命を賭して彼らをナチスの手から救ったもうひとりの日本人がいた。杉原千畝の「命のビザ」を手に日本へ逃げのびたユダヤ難民は6000人。滞在期限はわずか10日間だった。

感想・レビュー・書評

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  • 日本のシンドラー・杉原千畝が発行したビザでナチスから日本へ逃げてきたユダヤ人たち。ビザで許された日本の滞在期間はわずか10日で、その間に行き先の国の手配ができなければ強制送還となってしまう。そこで彼らに手を差し伸べたのが、ヘブライ語学者・小辻節三だった‥
    著者は小辻節三の生き様に惹かれて、彼の家族や知人にインタビューし、イスラエルにまで取材に行ってこの本を書き上げた。俳優である著者がこのような本を書いていたのも驚いたが、身の危険も顧みず真摯にユダヤ人と向き合った小辻節三という人物に感銘を受け、ちょっと泣けた。
    著者が言うように、彼の功績はもっと知られるべきだと思う。

  • 俳優の山田純大によってまとめられている小辻節三は、有名な杉原千畝が許可した日本へのユダヤ人渡航を受け、日本側で受け入れるために奔走した人物。
    何故受け入れに奔走が必要なのか?
    当時日本はドイツと同盟してアメリカと戦っていた。ユダヤ人はアメリカで大きな影響力を持っていた。だから、特高もドイツもスパイ容疑やユダヤ国民全体の陰謀を疑って、日本でもユダヤ人を虐殺しようとしていたのだ。
    後から小辻の生きざまを追ったので、そのあたりの事情は淡々と描かれている。しかし、杉原、小辻といった人たちが居なければ、日本はホロコーストに加担していたかも知れなかったのだ。
    今ではそんな事情は忘れられてしまったけれど。

    小辻は賀茂神社の神官の家系に生まれ、青年時キリスト教を学び晩年にユダヤ教に改宗した。
    彼はヘブライの文化を教養として日本で根付かせようとしたが、高度成長の頃世間の反応は薄かった。反応が芳しかったアメリカに拠点を移すが、軌道に乗る前に末期の胃癌で日本に戻る。
    日本に残していた家族の元で息を引き取った。

    彼は「エルサレムで眠りたい」という遺言を残しており、第四次中東戦争の最中で空港が閉鎖されている中だったが、彼によって命を救われていたイスラエル要人の手でその願いはかなえられた。
    彼は何を求めていて、日本に、家族に、ユダヤに、神に、何を見出したのだろうか。
    例えば海が見える丘に、一本の木の下に、育った故郷に眠りたいというのは、分かる気がするのだけれど、エルサレムに眠りたいというのはユダヤ民族に眠りたいと言っているように思う。その心境は探りがたいと感じる。

    著者の山田はハワイで育ち、学校の校外学習でパールハーバーのアリゾナ記念館に行ったという。
    「俺のおじいちゃんはここでジャップに殺されたんだぜ」と言われて、悪気は感じないが、暗いとげがずっと刺さっていた。それが彼に小辻を追って、エルサレムの墓まで行かせる。
    山田の言うように、人間は複雑である。ユダヤ人の自分の生徒と共にガス室に入ったドイツ人の先生もいたのだ。だが人類はホロコーストを起こしてしまった。ドイツ人の先生の例から分かるようにそれは、ドイツ人と言う人種の問題では無くて人間の、人類自体の問題である。国が、制度が、組織が非人道に走るとき個人は何ができるのか。そこで自分や、家族の命を危険に晒すことができる人間は、やはり少ないのだと思う。
    小辻の戦後の失意と、エルサレムに眠りたいと言って死んだその遺言から、そのように思った。

  • 小辻節三さんは、杉原千畝さんとはまた違った形で多くのユダヤ人達を救った人なので、日本人として知っておかなければならない人物だと思います。
    また、著者がいわゆる二世俳優と知り、見直しました。是非とも映画かドラマで制作してほしいものです。

  • 小辻節三の波乱万丈の人生をここまで調べつくしてまとめられた作者の熱い思いが伝わり息つくまもなく読み通した
     ヘブライ文化・ユダヤ教の学者であった小辻は 日本での理解者は少なかった というより関心を持つ人はほとんどいなかった 太平洋戦争の開戦直前 6000人ものユダヤの難民をドイツナチスの追っ手から救い 安全な国に送り出すために 船の手配 そのためのビザの延長 などなど すでに日本で反ユダヤの活動をひそかに始めているナチス憲兵に悟られぬよう成し遂げた 今なら大変なニュースになるところだが当然おおやけにはできない 
     晩年は より共感してくれる人の多いアメリカで活動していた 後年 自叙伝をまとめたが これも自国語じゃなく英語で書かれている 戦争直前満州で その後日本で いかに苦しい思いをしたかがわかる 平和な時代になりユダヤの人たちとの交流復活・改宗・イスラエルへの埋葬などなどアメリカやイスラエルでは大きなニュースになった でも 日本では小さくしか取り上げられなかったという ホロコーストという暗い記憶につながるユダヤのニュースは日本ではあまり歓迎されないという こういう感覚は残念ながら自分にもある おさない頃に読んだアンネの 想像を絶する痛ましい出来事は思い出すたびに 今も胃が裏返るように痛み見つめ続けることが出来ない こういう経緯から常にユダヤ人とともにあった小辻についても日本での記録は少ない
     最晩年は日本に戻り家族とともにすごしたが この時「百年以内に(日本でも)誰か、自分をわかってくれる人が現れるだろう・・・」と二人の娘さんに語っている
     この本によってようやくその時が来たのだと思う 関係者が殆ど亡くなられて行く中で この本をまとめ上げた山田純大氏の功績は非常に大きい
     1973年(昭和48年)アブラハム小辻永眠 享年74歳
    最愛の夫 父親のお墓はお参りのしやすいところに・・・と思うのが普通なのに 遺言により当時直行便もなかったエルサレムへの埋葬を受け入れたご遺族のお気持ちの大きさに頭が下がる 
     日本人にとってこんなにも誇らしい偉業を成し遂げた小辻節三の本はアンネの日記 杉原千畝の本とならび読み継がれていくと思う

    この本では他に満州のことなど 生きた歴史にふれることが出来た 

  • [命の査証、その繋ぎ手]リトアニアのカウナスにおいてユダヤ人難民たちに査証を発給し、その命を救った杉原千畝のエピソードに心惹かれた著者は、「では日本において彼等を迎えたのは誰だったのか」という疑問を抱く。残された情報が乏しい中、彼は小辻節三というユダヤ教学者に行き当たるのであるが、さらに調査を進めていくと、実は小辻は難民の生死をも左右する決定的な役割を果たしていたことが明らかになり......。歴史に埋もれていた日本史と世界史の隣接点を明らかにした作品です。著者は、俳優として活躍し、『水戸黄門』や『男たちの大和』などに出演されている山田純大。


    小辻節三氏については本書を読むまで、恥ずかしながら聞いたこともなかったのですが、その功績と信念に「こんな人がいたのか...」と正直驚かされました。「杉原千畝が査証を発給してめでたしめでたし...」となってしまいがちなところをさらに一歩進めた著者の関心の置き所にも感心しましたし、なによりも困難な調査や取材を成し遂げたその思いに頭が下がります。歴史の貴重な一側面を明らかにした、これまた貴重な一冊ではないかと。


    また、本書の序盤に松岡洋右が携わった「河豚計画」なるものが紹介されているのですが、それがまた実に興味深い。日独の連携を深め、結果として対米戦へと舵を切る原動力の一つになったと見なされている松岡ですが、本書で明らかにされる構想(それは結果として松岡が今日から振り返ったとしても成功したとは評し得ないのですが)から、その複雑な思いの丈や彼の人間性が浮かび上がってきます。

    〜小辻は日本人に対して、ユダヤ人の習慣や精神などを説明し、見方を変える努力をした。そして、このことはもう一つの意味を持つ。それは日本人にユダヤ人の正しい姿を知らせただけではなく、ユダヤ難民たちにも日本という国をきちんと紹介したことである。〜

    著者の情熱というか執念がすごい☆5つ

  • この本は本当に素晴らしい本だった。俳優とは思えないくらいよく勉強、調査していた。

    小辻節三が杉原のビザで日本に来たユダヤ人のビザの延長期間を延ばすために日本政府とかけあったり、神戸でのトラブル解決に疾走していた。凄い人だ。

    満鉄の顧問をしていた時に、「河豚計画」というユダヤ人を救う計画があった。でも当時の日本はドイツとの関係を考えて大変だった。
    松岡はアメリカで生活していたから、アメリカと戦争しても敵わないとわかっていたが、ナチスとの関係も悪くはしたくないと思っていた。松岡が小辻にユダヤ人を救うアイディアを示唆していた。

    小辻は最後はユダヤ教に改宗するのも、人生波乱万丈。
    ユダヤ人との関係も本当に絆である。

    ユダヤ人にも小辻は助けられていた。満州で小辻らを助けてくれたのもユダヤ人。

    こういうイスラエル、ユダヤ人との関係をもっと日本は大切にすべきだろうな。

  • 資料も取材も丁寧ではあるし、熱意と内容は素晴らしいし、そもそも、事実が酷いことであることも、とても理解していますが、読み手の側としては、何度も感情を揺さぶられて、本当に読み進めることがつらかったです。
    (読了の直後のため、感情がもう少し落ち着いてから書き直すかもしれません)

  • ホロコーストが遠い国の話ではなく、ユダヤ人を救うために尽力した日本人らがいたということは驚きでした。著者が小辻氏を知る人物と繋がりを持っていく奇跡は、ユダヤ人を救いユダヤ人に救われた小辻氏の人生と重なるものがありました。日本人にとってユダヤというものを近くに感じることができる一冊です。

  • 山田くん主演で映画化すべき。
    以上!

  • 第二次世界大戦時にリトアニアの領事代理の杉原千畝がユダヤ難民に発給したビザで日本にやってきたユダヤ難民を最終目的地の米国やカナダなどに着けるように東奔西走した日本人がいる。それがヘブライ学者の小辻節三博士である。何故博士は日本に来たユダヤ難民を自身の危険も省みずに助けることをしたのかを追った本である。

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