原色の街と驟雨はどちらもいわゆる赤線地帯と呼ばれる歓楽街の娼婦たちとそこに通う男の物語。都会的でクールな主人公の娼婦との関わり方は付かず離れず。時には心を揺り動かされることもありながらそれを悟られまいとする両者はある種、非常に技巧的な人間関係を敷いているといえる。
しかし、この技巧的な人間関係というのは別に娼婦と男にだけ存在する訳ではなく、社会集団の持つ力が弱まって、個人と個人を繋ぐ引力も弱まった現代においてはごく一般的に存在する。その絶妙な距離感を描くのに題材として娼婦や彼女らがいる遊郭が適していたのだろう。
主人公は直截な感情の発露を行わない。代わりに自らの心の動きを第三者的視点で見つめる。その描き方が明晰で言語できていなかった感情を正確に言い当てられた気がして気持ちが良い。
「そのことは、元木英夫の感受性の鋭さではあっても、優しさではない。それは、結局のところ自分自身に向けられたものであり、自分自身の神経を労わるためのものであって、エゴイズムの一種である。」
「あけみはいつも鈍感な筈の、いや事実鈍感にちがいないこの男が、このような事柄になると示しはじめた緻密さに唖然とした。」
「この場に及んでも、彼はその感情を、なるべく器用に処理することを試みた。」
一見、ドライな主人公だが自分の感情すら技巧で弄びつつも時にその制御が外れるところに人間味と親近感を抱いた。
「原色の街」のラストの印画紙が舞い降りる中、薪炭商の顔が浮かび上がるシーンがなんとも言えず奇妙で好き。
個人的には「夏の休暇」もかなり好み。一緒に長い時間いるだけで理解していると勘違いしてしまうのが自分の親。親が時に見せる底知れない、何を考えているかわからない感じってどことなく怖い。
- 感想投稿日 : 2022年8月14日
- 読了日 : 2022年8月13日
- 本棚登録日 : 2022年8月13日
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