続 まんが パレスチナ問題 「アラブの春」と「イスラム国」 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2015年8月20日発売)
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感想 : 39
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早速だが、前作レビューのラストで抱いたモヤモヤが明らかになった。
「リアル・ポリティックス(現実的政治)」。利害優先の政治であり、噛み砕けばエゴということになる。
リビアで自国の旅客機が爆破されたにも拘らず、相手が賠償金と石油採掘権を差し出すや易々と乗ったアメリカ。ユダヤ人団体の圧力に屈して、パレスチナの独立を承認しなかったオバマ政権。対してシリアでは、政府による反政府運動へのジェノサイドが起こっても、石油が出ないからとアメリカばかりか国際社会まで救済を拒んだ。

「ユダヤ人は2000年もの間民族差別を受けたけど暴力で反撃しなかった。神がユダヤ人に与えた試練だと思って耐えてきたんだ。でもホロコーストでは世界から見殺しにされた。だからイスラエルを建国した時ユダヤ人は誓ったんだ。『これからは暴力に対しては暴力で反撃しよう』って」

前作『まんが パレスチナ問題』のエピローグで、ユダヤ人のニッシム少年はそう言っていた。
前作から10年ぶりの再会を果たしたニッシム・パレスチナ人のアリ・エルサレムのねこだったが、情況は悪化の一途を辿る一方だ。エピローグのあの言葉を彷彿とさせるかのように、イスラエル軍によるガザ地区への空爆は続いている。
本書では主に、チュニジアを発端とした独裁政権への反政府運動(通称「アラブの春」)や「イスラム国」の誕生・暴走をピックアップ。2人の国(イスラエル・パレスチナ)は直接関わっていないものの、充分に影響されている。

前作よりも気が重くなり、憤りも強まった。前作よりも複雑になっていて、ますます暴力が世界を支配していた。暴力には暴力の厚塗り。「地上から人がいなくなるまで戦闘を続けるのか?」って何度思ったことか。

「国民ってのは、いつの時代でも、とても好戦的なもの。イスラエルでも戦争をすると政府の支持率が上がる。ハマスはイスラエルにとって格好の、必要不可欠の『敵』なんだ」

恐らくこれが世界的な真理なのだろう。あまり言いたくないが、日本人的には理解し難い。

では日本はどうなのか。(以下は、あくまで個人の意見になります)
本書でも言及されているように、日本が原爆投下への復讐心を止められているのは大したモンだけど、何でもアメリカの言いなりになるのは間違いではないだろうか。ハマスやイスラエル軍みたいに攻撃的でなくても、アメリカが我々に暴力の厚塗りをした結果(核兵器を二度も用いた罪)を立ち止まって思い出すくらい、強気に出ることも少しは必要なのではと。
「アメリカから、国際社会から嫌われたらおしまいだ」と八方美人しているから、映画『オッペンハイマー』の宣伝で見られたような原爆軽視の風潮が起こる。(正直まだ腹の虫がおさまっていない) 核廃絶がいつまで経っても進まない。

これが日本式「リアル・ポリティックス」であるならば、パレスチナ問題だって国際社会もろとも看過していた…なんてことになりかねない。好戦的はさることながら、こと勿れ主義も考えものである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年11月26日
読了日 : 2023年11月26日
本棚登録日 : 2023年11月26日

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